garamanのマジック研究室

王様のトリック

「奇巌城」。松平一族最後の伯爵である松平久蔵が、晩年、精神のバランスを崩し、極度の被害妄想を抱く中、自分を殺しにくる悪魔に怯えて建てた要塞。北アルプスの山腹に異様な姿で佇む奇巌城に、ある時、5人の男性たちが集められた。猛烈な吹雪に閉じ込められる形になった5人。しかし、招待者は一向に現れない。5人はお互いを牽制しつつも、奇巌城の中を探索することにした。そして見つけた異様な部屋。その部屋には何もなく、窓以外の壁も天井も全てが真っ赤に塗られている。壁の一面には、犯人からの異様なメッセージが書かれていた。「これから殺人劇の幕があがる。犯人はふたり。犠牲者の数は⋯⋯未定。」唐突に連続殺人事件の幕が開けた。犯人はこの中にいる。それも、ふたり。

ハラハラする展開と読みやすい文章で、最後まで一気に読めます。「殺人の動機が弱い」といった意見も多いようで、パズルのような完璧な回答を求めるタイプには、欲求不満な作品なのかもしれません。私は「こんなこと考える犯人は、側から見たら相当理不尽な理由で人を恨んでいるんだろうなぁ」と想像しつつ読んでいたので、想像通りの理不尽さでスッキリしましたが。後半に出てくるトランプの解説はちょっとストーリーと関係なさすぎて浮いた印象ですが、それも偏った感覚を持った犯人が語るからこその不気味さを感じました。本格ミステリではありません。ライトなエンターテイメント小説として楽しめるのではないかと思います。

吉村 達也
双葉文庫

レビュー

なし