嘘と正典
時間を超越したSF物語、断絶した父子の絆を再確認する物語、音楽が貨幣的価値を持つ不思議な島の物語。ジャンルを超えた6つの短編が収められています。そのうちの1編目が「魔術師」。他の5編はマジックとは関係ないので紹介しませんが、同じ人が書いたとは思えないほどそれぞれに特色のある作品です。
「魔術師」。勢いを失いつつある往年のマジシャンが、人生の最後に前代未聞の一大ステージに挑戦した。観客の前で過去にタイムトラベルをして見せたのだ。証拠の映像まで携えて観客の疑問に答えるマジシャン。最後にはふたたび42年前に旅立ち、そのまま2度と姿を表さなかった。伝説の舞台となったこの演技を、客席の最前列で見ていた娘はそのひとつの可能性に気がついた。自身もマジシャンである娘はこの謎の舞台の再演に乗り出す。父は一体どこに消えたのか、そして娘の再演の結末は。
タイムトラベル系の現象を文章で説明するのは非常に難しいところですが、そこにマジックとしての雰囲気を乗せ、直接的な会話シーンもなく父娘の対話を描く。短編でこれを描ききる力量には脱帽です。
電子書籍版もあります。
レビュー
なし