garamanのマジック研究室

Dunbury Delusion

あなたは、カードを1枚覚えます。マジシャンはあなたが選んだカードを当てるために数枚のカードから情報を読み取ると言います。例えば1枚目のカードはあなたが選んだカードの色を表していたり、2枚目のカードはあなたが選んだカードの数字を表していたりすると言うのです。

実際にマジシャンが何枚かのカードをめくっていき、それらのヒントを元に残ったカードの中からあなたが選んだカードを探そうとするのですが、そのヒントにするはずのカードの中にあなたが選んだカードが混ざっているではありませんか。これでは、マジシャンは残ったカードからあなたのカードを探すことはできません。失敗かと思われた次の瞬間、どんでん返しが待っています。


チャーリー・ミラーのダンバリー・デリュージョン

あそびの冒険 全5巻
「1 トランプ・マジック・スペシャル」p.182

「技法と奇術のコンビネーション」をテーマにクラシックマジックを紹介している章の中で、セカンド・ディールとの絶妙のコンビネーションであるとして紹介されているマジックです。冒頭の解説によると、1933年にビクター・ファレリが発表した後、1940年にチャーリー・ミラーが「Dunbury Delusion」という改案名で発表したのが広まったそうです。ファレリ自身がスペインの奇術師から教わった手順として発表しているので、正確なルーツは不明ですが「Dunbury Delusion」としての原案はチャーリー・ミラーという事になるでしょう。

手順自体は簡潔に解説されており、手順の中で使用するセカンド・ディールについても解説を添えてある、とても親切な内容になっています。セカンド・ディールでの注意事項として左手の動きについて触れられていますが、このアドバイスはとても有益です。(2004.11.13)

デイヴズ・ディライト
〜 Dave's Delight 〜

カードマジック入門事典
p.314

改案に改案を重ねた、ちょっとこった手順が紹介されています。一見失敗したように見せかけるようなマジックを総称して「サッカー・トリック」と呼びますがこのマジックでは、一回失敗したように見せて、実はどんでん返しが待っていて、しかもその後もう一つのクライマックスがある、という非常に凝った内容になっています。

もともと、日本人にはサッカー・トリックは向かないと言われています。それは、失敗したように見せかけたときに、観客の方が気を利かせて失敗していなかったように振舞ってくれたり、また、最後に実は失敗じゃなかったという演出を、不愉快に感じてしまう人が多い為で、日本人の民族性の表れだと言われます。この本の手順では、内容が凝っている分、「始めから騙すつもりだったのか?」と、不愉快に思われる可能性が非常に高くなるという一面もあります。場所や相手を選んで適切な演出で演じることが必要になります。センスの問題ですね。(2004.11.13)

Make Mine Dunbury Well

世界のカードマジック
p.28

ジョン・ラッカーバーマーによる、シンプルな方法です。解説もシンプルで、イラストも無く2ページ程にまとめられています。チャーリー・ミラーがダンバリー・デリュージョンとして発表する前からこの現象は存在していたらしいですが、起源はハッキリしていません。ヴィクター・ファレリが若い頃にパルタガスというマジシャンに見せてもらったということで、ファレルの手によって「パルタガス・セル」というカード・マジック・シリーズに収録されていますが、パルタガス自身がこの現象の発案者かどうかも不明ですから、起源はさらに古いのかもしれません。

そんな解説も含めて2ページ程しかありませんから、作品の解説としては1ページ半くらいです。作品全体のコンセプトとしては、(チャーリー・ミラーの)原案の筋書きを残しつつ、難しい技法を使用しない事を狙っています。著者自身も「マジシャンはだませないが、それ以外の人たちは度肝を抜かれるはずだ!」と言い切っています。(2008.05.17)

ダンバリーの妄想

テクニカルなカードマジック講座
p.165

デビッド・ソロモンの [Dunbury Delusion Revisited] に刺激されて作られた、荒木一郎氏の作品です。テクニカルな〜と銘打った本だけに、高度なテクニックを要します。それでもそれぞれのテクニックは少しでも容易にできるようにと工夫されています。

2枚のカードをヒントに使います。2枚のカードの合計数だけデックのトップからカードを数え取っていくと、その枚数目から観客の選んだカードが出てくる、という演出で手順が進みます。もちろん、この2枚のうちの1枚が相手の選んだカードなので、観客は戸惑う事になります。2枚のヒントカードはテーブルに置いておいて、残りのデックから合計数分だけ数え取ると、確かにその枚数目から観客のカードが出てくるのです。そうなるとテーブルの2枚のカードが気になるところですが、ここからが荒木作品のオリジナル現象です。2枚のヒントカードは観客が選んだカードと同数字の別のマークのカードになっています。実際に数え取った時のカードが1枚、ヒントカードが変化して同じ数字になったカードが2枚、そしてマジシャンの手に残ったデックを裏返すと、そこにも同数字のカードが1枚出てきます。ダンバリー・デリュージョンのエンディングにフォー・オブ・ア・カインドを出現させてしまう意欲作です。

面白い試みですが、演じ方によってはしつこいかもしれません。本来の「カード当て」のインパクトがボケてしまうような気もしますが、同時に観客の「だまされた感」も薄らぐ効果があり、日本人相手にはちょうど良いかもしれません。(2009.01.17)

ダンバリー・デライト 私の改案

松田道弘のオリジナル・カードマジック
p.142

松田道弘氏の作品です。ヒントにするカードの中に、相手が選んだカードが含まれているという部分は当然踏襲しています。ちゃんとヒントが指し示す枚数目から相手のカードが出てきますが、そうなれば当然ヒントカードの中に見かけたカードの方が気になります。同じカードを何枚も使っているわけではありませんので、ヒントの中で見かけたカードは違うカードに変わっています。この「途中で見かけた自分のカードが違うカードに変わっている」というインパクトを更に強めた作品になっています。インパクトを強めるためにフォー・オブ・ア・カインドを出現させています。

残念ながら、観客の視点で考えると原案より劣っていると言わざるを得ません。原案の通りに演じれば、体験後の観客の心には「確かに見かけたはずなのに。。。」といった不思議さを一緒に見た人たちと共感できます。それに対して、この作品ではフォー・オブ・ア・カインドを揃えてしまうため、何らかのテクニックを使っていることは明白です。そんなテクニックがあるなら「途中で見かけたカードをすりかえたんだな。でもいつの間に?」といった疑問に変わります。マジシャンのテクニックの方に観客の意識が偏ってしまうような見せ方になってしまうのは、このテーマの効果を薄めてしまう事になります。

ただし、この作品は「ショート・プログラムのすすめ」というテーマに則って紹介されています。短い手順で簡潔な現象の中に強烈なインパクトを盛り込む、という意味では原案を上回っています。時代によっても、演じる場所や相手によっても、評価は分かれるところです。(2009.03.20)

コメディー・ダンバリー・デリュージョン

新版 ラリー・ジェニングスのカードマジック入門
p.164

加藤英夫氏の作品です。タイトルにあるとおり、コメディータッチの演出になっていますので、騙された感の少ない作品といえます。日本人相手のサッカー・トリックとしては秀逸です。ただし、コメディー風に演じる事が前提のマジックですから、普段シリアスな演出をしている方には向かないでしょう。(この作品の時だけコメディータッチでは観客が戸惑います)

観客から見た印象は分かりやすくなるように工夫されています。最後の最後に「実はこのカードが、、、」と注目を引くべき場面では、そのカードだけが裏向きでテーブルに置かれていますので、自然な形で視線を誘導できます。しかも最大の特徴は、途中のセリフが間違っていなかった事を証明するというスタイルです。「騙された」というよりは「あ、そうだったのか」と思わせる効果があります。(2010.09.25)

The Dunbury Delusion

Expert Card Technique
p.319

チャーリー・ミラーの原案です。観客の立場としては、心地いよい程度に「やられたっ!」という感じが楽しめる作品です。この作品を元に、その後多くの改案が生み出されていく事を考えると、マジシャンの立場でも興味深い作品だったのでしょう。斬新な現象ですし、改案のポイントも適度に見つけられるという点から、心をくすぐられたのかもしれません。その改案のポイントの一つにあげられるのが技法の難しさです。セカンド・ディールに絶対的な自信がないと演じられない特徴があります。場合によっては、手元を注目された状態で、連続で何回も行う必要がありますので、改案したくなるのも無理はありません。しかし、チャーリー・ミラーはそれを実際に演じていたのです。そして、多くの観客を魅了してきました。難しいからと敬遠せずに実演できれば、これほど力強いインパクトを与える作品も珍しいのです。

3ページほどの解説にたった2枚のイラストではありますが、充分な解説です。また、最後に半ページ程を費やして、難しい技法を使わないバージョンの解説も添えてありますが、見た目の印象を弱めてしまうのであまりお勧めできません。(2012.07.15)

私のダンバリー・デリュージョン

現代カードマジックのテクニック
p.81

松田道弘氏の改案です。チャーリー・ミラーの原案の素晴らしさを力説した後、たった一つの欠点を看破しています。それは、1枚目にスペードのカードが出た後、2枚目に例えばスペードの6がでてしまうと、観客を混乱させてしまうというものです。この例では、1枚目を出したとき「あなたのカードはスペードです」と言い、2枚目には「あなたのカードは6です」と言うわけですが、2枚目のカードがまさにスペードの6ですので、現象がややこしくなってしまいます。このあたりの解決策として、松田氏の改案では1枚目がマークを、2枚目がカードの位置を表すことにし、ヒントカードは2枚しか使いません。これには、見た目の現象をより分かりやすくする効果もあり、素晴らしいアイディアです。また、技法の難しさを解消するため、ブレークやセカンド・ディールを使用しない方法になっています。

本に解説されているのは、松田氏の改案の説明だけではありません。ビクター・ファレリが発表した、スペインのパルタハスというマジシャンが考えた [Partagus "Sell"] を3ページにわたって解説。その後、チャーリー・ミラーが改案し、後のスタンダードになる [Dunbury Delusion] の改案ポイントと問題点を1ページ程で解説。さらに他のマジシャンによる [Dunbury Delusion] のさらなる改案作品を駆け足で紹介。ここでようやく松田氏の改案が4ページにわたって3枚のイラストを添えて解説されています。

まだ終わりません。さらにチャーリー・ミラーの原案の手順を1ページで簡潔にまとめたあと、[Dunbury Delusion] 関連作品の参考文献を1ページ半にわたって記載してあります。(2012.07.21)