garamanのマジック研究室

Geiger Counter Card

あなたが選んだ一枚のカードを、マジシャンはガイガー・カウンター・カードを使って当ててしまいます。ガイガー・カウンターとは放射線検知器の事ですが、動作音としてカチカチと小さな音がします。線源に近づくと放射線を検出して、カチカチ音が早く大きくなってくるような機械です。もちろん本物のガイガー・カウンターを使うわけではなく、スペードのAをガイガー・カウンター代わりにした演出です。

演出はこうです。まず、ガイガー・カウンター代わりにスペードのAを取り出し、テーブルに出しておきます。その後、あなたが選んだ一枚のカードをデックに戻してカットし、テーブル上にリボンスプレッドします。スプレッドされたカードに、スペードのAの角を押し付けるようにしながら左から右に動かしていきます。こうする事でカードとカードの段差に差し掛かるたびに、スペードのAはカチカチと音を鳴らしながら移動していく事になります。このカチカチが動作音です。あなたが選んだカードに近づくとカチカチ音は大きくなっていき、そこを超えると徐々に小さくなっていきます。音が大きくなった周辺にあなたが選んだカードがあるはずです。その周辺のカードだけを残して、スプレッドしなおし、カチカチ音を確認します。こうして段々と枚数を減らしていくことで、最終的にはあなたのカードが検出されます。

カード当てにも色々な演出があり、それこそ無数に発表されています。どれも結局は「カードあて」として一つのジャンルにまとめられてしまいがちですが、この作品は、演出次第で後世に残る程の作品に昇華するという好例です。


ガイガー・カウンター・カード

カードマジック事典
p.110

原案者のジョン・コーネリアスの手順が高木重朗氏により簡潔に解説されています。セルフ・ワーキング・トリックのカテゴリーに入れられるほど、難しい技法を必要としない作品ですから、手順だけを簡潔にまとめたこの事典では、1ページにも満たない量でサラッと書かれています。イラストもありません。文章で表現すると他愛もない作品のようにもみえますが、実際に演じてみればこの作品の素晴らしさを実感できるでしょう。カードマジックは、ともすれば観客に頭を使うことを強要してしまう傾向がありますが、この作品は現象(手順ではなく現象)が実にシンプルで、かつ観客の聴覚に訴えるという珍しい作品でもありますので、観客を疲れさせる事もありません。(2007.06.23)

ガイガー・カウンター・カード

スーパークロースアップマジック 前田知洋 奇跡の指先
Disk1/Chapter12

ほぼ原案通りの手順を前田知洋氏の実演で見る事ができます。文章では伝わらない事もこの映像を見れば体験できるでしょう。作品にとって大切なのは技術の難易度ではなく、観客から見た印象です。極端な話、音が大きくなるという一点においても、本当に大きな音を出す必要はありません。大きくなったと観客が思ってくれる事が大切です。ひとつの作品に対して心理学的な考察を充分に施し、いつも上質のマジックを提供してくれるマジシャンの実演。それだけでも貴重ですが、このDVDではいくつかの作品をレクチャーしてくれる構成になっており、ガイガー・カウンター・カードもその一つになっています。(2007.06.23)