garamanのマジック研究室

Neither Blind Nor Silly

2人の観客に手伝ってもらいます。シャッフルしてよく混ぜたデックを2人に渡したら、しばらくはこの2人がカードを扱います。観客は好きなだけカットし、好きなところでやめます。トップカードをひとり目の観客が、2枚目のカードをふたり目の観客が覚えて、もう一度デックのトップに戻します。マジシャンはこの状態から2人のカードを当てると言います。不可能状況のように思えますが、マジシャンはなぜか余裕の表情。「お2人が何を覚えたかわかりませんが、デックの上に乗っていることがわかっています」と言うのです。場所もわからないようにするために、さらにデックを観客がカットします。これで位置も分からなくなりました。ところがまだマジシャンは余裕の表情。「正確な場所はわかりませんが、お2人のカードがどこかでくっついて並んでいることがわかっています」とのこと。そこで観客はデックを手に取り、1枚ずつ交互に配ることで2つのパイルに分けます。こうすると必ず、2人のカードは別々の山に分かれることになります。それでもマジシャン「もしひとりのカードが上から5枚目にあれば、もうひとりのカードは別のパイルの上から4枚目か5枚目か6枚目にあります」と、まだ余裕を見せます。そこで、2人の観客はパイルを1つずつ手に取り、思う存分シャッフルします。ここまで全て観客のての中で行われてきました。完全に不可能状況に思えます。ここで初めてマジシャンはパイルに手を伸ばしますが、一瞬でその中から1枚のカードを抜き出します。もうひとつのパイルからも1枚のカードを抜き出します。それらがまさに2人の観客が覚えたカードなのです。

ホワン・タマリッツによる、セルフワーキングの名作です。


目が節穴でなければ、おバカでもない

ホァン・タマリッツ カードマジック
p.237

ハリー・ロレインによる記事です。ハリー・ロレインがホワン・タマリッツに対して「強烈で簡単にできるマジックを」と要請したところ、真っ先に考え出されたのがこの作品だそうです。

始め3ページは、観客から見た現象が臨場感たっぷりに綴られています。テクニックを介在させる要素を全く感じさせない現象です。一般の方よりも、ある程度の技術を持ったアマチュアマジシャンの方が驚くかもしれません。そんな現象と演出に焦点をあてて彩りよく綴るのは、マジック解説としては良い方法のように思えます。特にこの作品には。この不思議な現象を疑似体験した読者はその解決方法に驚くでしょう。ほんのわずかな工夫が驚くべき効果を生み出す好例です。トリックの解説はほんの数行ですが、演じる上でのコツや付加的なアイディアなどが3ページ半ほどのボリュームで語られます。

セルフ・ワーキングでありながら、一般の人のみならず、マジシャンをも煙に巻く秀作です。(2020.07.05)

T.N.T.

Card College Light (日本語版)
p.3

ロベルト・ジョビーによる、ホワン・タマリッツの [Neither Blind Nor Silly] の解説です。T.N.T. というタイトルが何を意味しているのかはわかりませんでした。[Neither Blind Nor Silly] [Neither Blind Nor Stupid] [T.N.T.] など、発表される媒体によって色々な呼び名があるようですが、同じ作品として良さそうです。

単なるセルフワーキングではなく、賢く練られた構成に適切なプレゼンテーションを添えて、一つの演目として昇華させることを目的とした「Card College Light (日本語版)」において、最初の解説として取り上げられている作品です。この本のコンセプトを象徴する作品になっています。解説文中のセリフは本人の演技よりもやや丁寧な印象を受けますが、文章で解説することや日本語に翻訳した影響かもしれません。それでも多くの方には翻訳された日本語くらいの丁寧さが丁度良いのではないでしょうか。

開設されている手順自体は、ホァン・タマリッツ カードマジックに載っているものと同じです。 T.N.T. 単発でも威力は絶大ですが、この本の解説通り、続けて Intuitionを演じるのが最高の流れです。(2020.07.12)

ニーザー・デフ・ノア・ステューピッド

マジック・フロム・マイ・ハート 日本語字幕版
演技 : 1巻/Title3/Chapter2
解説 : 1巻/Title3/Chapter5

ホアン・タマリッツ自身による改案です。タイトルの一部が「ブラインド(視覚障害)」から「デフ(聴覚障害)」に代わりました。今回の改案では、観客のデックに触れずに突然観客のカードを言い当てることができます。またそれ以上に、マジシャンがデックに触れないどころか、ほとんど見る必要さえなくなっています。「私にはちゃんと見えている」という表現が相応しくなくなって、タイトルを変更するほどの改善です。従来の作品を知っている人が「これからいよいよクライマックスに向かう」と思った瞬間に「スペードのキング!」と言い当ててしまうのです。一度「Neither Blind Nor Silly」に欺かれたマジシャンたちも、再び「Neither Deff Nor Stupid」に欺かれたことでしょう。

さすがに、従来の作品のように簡単な準備だけとはいかず、特殊なデックを必要としますが、それでもテクニック不要といっても差し支えないくらいのテクニックしか使いません。その唯一テクニックを使う場面でさえ、観客には疑われません。マジシャンがデックに触れた印象をほとんど残さないように工夫されています。ただし、本人も解説の最後に添えている通り、一般の観客に対しては従来の作品も改案も同じ程度のインパクトでしょう。(2020.07.19)