garamanのマジック研究室

Overkill

マジシャンが背中を向けている間に、あなたはデックから数枚のカードを持ち上げます。持ち上げたカードの枚数を心のなかで数えたら、その枚数を記憶しておきます。数えたカードはマジシャンに見られないようにマットの下に隠します。これで、あなたが覚えた数字はあなたにしかわかりません。マジシャンは向き直ると、残りのデックから20枚ほどのカードを表向きに並べ、こう言います。「あなたが覚えた枚数目のカードをよく見て記憶してください」と。言われた通りにあなたは記憶します。そのカードはもちろん声に出していませんから、何を覚えたかはあなたしか知りません。しかし、、、

マジシャンがおもむろにカードのケースを拾い上げると、そのフラップ部分には、あなたが記憶したカードの名前が書かれています!

さらに、テーブルに並べた20枚のカードを全て裏返すと、あなたが記憶したカードだけ裏面のデザインが違います!!

さらに、さらに、一番最初にあなたが取り上げた数枚のカードをマットの下から取り出してひっくり返すと、そこには覚えたカードがあるのです!!!


オーバーキル
〜 Overkill 〜

カードマジック入門事典
p.144

考案者として、アレン・アッカーマンとエドワード・マルローの名前がクレジットされています。このページに現象として書いたことが本当に起こります。難しい技法はひとつも使いません。説明もたったの3ページ半で、イラストは1枚だけ。準備も簡単ですので、この解説を読んでペットトリックとしている人も多いのではないでしょうか。もしかしたら、説明が簡単すぎて、素通りしてしまった人もいるかもしれませんが、だとしたらとっても勿体無い話です。Overkill というタイトルの通り、「やりすぎだよ!」と言いたくなるような衝撃を受ける作品です。小気味良いテンポで演じたいものです。(2016.07.09)

オーバー・キル・プラス

テクニカルなカードマジック講座
p.119

荒木一郎氏の改案です。原案では、ほぼセルフワーキングでできるというメリットがある反面、準備が多少煩わしいところがありました。それに対して、荒木氏の改案では、ほとんど準備が要りません。もちろん色違いの裏模様のカードが1枚必要ですが、それをポケットに入れておくだけです。それでも原案と同じ現象を起こすためには、当然技法に頼ることになります。これは仕方ないトレードオフです。ところが、荒木氏の改案では、できる限りセルフワーキングで進められるように工夫がされているため、使用する技法はフォールス・カットひとつだけです。この作品をペットトリックとしている人も多いことでしょう。(2016.07.16)

Overkill

Stars of Magic 1
演技 : Title1 / Chapter13
解説 : Title1 / Chapter14

オーバーキルの考案者の一人として名前が挙がることも多い、ポール・ハリスの実演と解説が収録されています。もっとも、この映像の中でポール・ハリス自身が「アレン・アッカーマンとエドワード・マルローの作品」と宣言しています。準備も原理もカードマジック入門事典とほぼ同じですが、いくつか違う点も見受けられます。

ひとつは観客が数えたパケットの扱い。カードマジック入門事典の手順では観客の前に置いておくだけにしていますが、ポール・ハリスの演技ではマットの下に隠させています。このパケットはマジシャンに見えないように枚数を数えてもらったものですから、マットの下のように見えないところに隠すほうが、余計な疑い(厚みから枚数を推測しているのでは?)を抱かれなくて済みます。また、3つのうちの最後のクライマックスとして使われるパケットですから、その前2つのクライマックスを迎えている間は目につかないところにあるという点でも、良い方法だと思います。

もうひとつの違いは、20枚のカードをマジシャンが並べるときの形。カードマジック入門事典の手順ではまっすぐに並べているのに対して、ポール・ハリスはクエスチョン・マークの形に並べています。並べたカードを観客に数えてもらう時に、逆順に数えてもらわないといけない都合がありますが、クエスチョン・マークの形に並べることによって、その違和感が和らいでいるかと思います。細かいですが、とても重要な変更点です。(2016.07.23)

Paull Harris's Overkill

Stars of Magic 3
Title1 / Chapter11

同シリーズの1巻でポール・ハリスが演じているオーバーキルを、3巻でフランク・ガルシアが演じています。ただし、ポール・ハリスとは若干演じ方が違います。ポールがクエスチョンマーク上に並べたのに対して、フランク・ガルシアは直線に並べています。そして並べ終わったところを一枚目として数え始めるという、ちょっと違和感を感じる方法を採用しています。また、3つのクライマックスの見せ方にも違いがみられます。カードケースのフラップに予言が書かれているのは一緒ですし、2つ目のクライマックスとして観客の覚えたカードだけが青裏のカードに変わっているのも一緒です。しかし、最後のクライマックスが違います。フランク・ガルシアは、観客がマットの下に隠したパケットを取り出すと、2つ目のクライマックスとして使われた青裏のカードの上で振ります。振った後にパケットを表向きにすると、観客の覚えたカードになっています。

3つのクライマックスについて「何を見せているのか?」と考えるとその違いは顕著です。ポール・ハリスの方は、一貫して予言の現象になっています。フラップに事前に書いてあったのは明白ですから、これはわかりやすい予言。そして事前に分かっていたからこそ青裏のカードを混ぜておいて2つ目の予言を示し、最後には観客にそのカードを引かせていた事を示すという、たたみかけるような展開です。それに対して、フランク・ガルシアの方は、1つ目を予言、2つ目をカラーチェンジ、3つ目を転写、として演じています。3つの違う現象を穏やかに見せているような印象です。どちらが良いかは好みによりますが、Overkill というタイトルに相応しいインパクトがあるのは、ポール・ハリスの手順のような気がします。

なお、この演技だけは実演のみで解説がありません。(2016.07.31)