garamanのマジック研究室

Princess Card Trick

マジシャンが広げた4枚のカード。あなたはそれを見て好きな一枚を記憶します。手を触れる事も無く、声に出す事も無く、ただ心の中で決めるのです。そのカードは、マジシャンは元より、あなた以外の誰にも知る術はありません。マジシャンは4枚のカードをポケットにしまい、あなたが選ばなかったであろうカードを1枚ずつ取り出して見せていきます。1枚目、あなたが選んだカードではありません。2枚目・3枚目と徐々に確率的には難しくなっていきますが、やはりあなたが選んだカードは出てきません。

最後にポケットに残った1枚のカードをゆっくり取り出すと、紛れもなくあなたが心に決めたカードです。


プリンセス・カード・トリックあの手この手

メンタルマジック事典
p.111

タイトルの通り、プリンセス・カード・トリックいくつかのバリエーションが解説されています。

1つ目は、著者の松田道弘氏が小学校3・4年生の頃、少年雑誌の付録を見て覚えたという作品。ほぼセルフワーキングでできる為小学生向きなのでしょうが、決して子供だましではありません。この後で紹介されるどの作品よりも実用的に見えます。この作品ではカードは3枚で演じます。3枚の中から1枚を心に決めてもらい、3枚は一度ポケットの中へ。選ばれなかったであろうカードを2枚まとめて取り出し、相手に見せます。確かに選んだカードではありません。観客から心に決めたカードが何だったのかを声に出してもらい、ポケットに残ったカードと一致している事を見せて終わります。3枚で簡略化している点や、2枚まとめて取り出す辺りの演出がスピーディーで軽快な印象を受けます。100年以上前からあったはずのトリックですが、この作品では古めかしさが無くて良いのではないでしょうか?ただし、使用するカードのフェースには注意が必要です。スポットカードだけにしておくのがベストでしょう。

2つ目は、「The Art of Magic」からヘンリー・ハーディンによるプリンセスカードの原案の解説です。「The Art of Magic」が1908年発行ですから、原案はそれ以前から存在します。この作品ではクラブ・ハート・スペード・ダイヤの絵札を1枚ずつ、計4枚のカードで演じます。演出としてはこのページの冒頭で解説したとおりですので割愛します。大きな特徴としては、とにかく準備を必要でとても即席にはできないと言う事と、隠れた部分で手順が複雑だという事です。

3つ目は、同じく「The Art of Magic」で解説されている別バージョンです。原案にある大きな欠点を補うために、トリック・カードを導入しています。表現する現象は同じですが、マジシャンンのハンドリングはより軽快になっています。ハンドリングが軽快なら見ている側にもスッキリした印象を与えます。あのネイト・ライプチッヒの得意芸だったそうです。

4つ目は、セオドア・アンネマンによる改案です。世界有数のメンタリストであるアンネマンの手にかかると、ここまで人の心を操るのかと舌を巻くほどの作品になっています。発表当時、原案を知っていたはずの多くのマジシャンが一様にひっかかったという強烈な作品です。台詞や動作の一つ一つに心理的な効果が込められていますので説明が若干長いですが、松田氏も言うように「よくできたミステリを読んだときのような満足感」を味わえます。

最後は、ダイ・バーノンによる改案です。ここまで4つの作品を紹介してきて、最後にあのダイ・バーノンです。誰もが期待するような流れではありますが、珍しくバーノンの失敗作か?と思わせるような内容です。カードマジックとして見ると高度なテクニックを用いた興味深い作品なのですが、メンタルマジックとしてみると無駄な動きが多すぎます。松田氏も途中で解説を中断していますが、この作品を紹介したのは、同じテーマを全く異なるアプローチで解決していこうとする、その豊かな発想力を示すためですので、一度通して読んでみると面白いです。

全体を通して13ページにわたる研究成果です。(2008.12.07)

I.A プリンセス・トリック

テクニカルなメンタルマジック講座
p.80

荒木一郎氏の改案です。セオドア・アンネマンによる改案をさらに改案したものです。最後にポケットに残った一枚のカードを観客に取り出させることができるのが、セオドア・アンネマンの改案のもっともマジシャンを驚かせたポイントですが、荒木氏の改案でもそれを踏襲しています。また、プリンセス・カード・トリックのタネにあたる部分を考慮すると、録画されて2度見られるとマズイことになりますが、荒木氏の改案では、その部分も解決されています。時代に合わせた進化といったところでしょうか。(2016.03.06)