garamanのマジック研究室

Triumph

あなたは一枚のカードを覚えてマジシャンに返します。マジシャンはそのカードを見ることなく1組のデックの中に入れてしまいます。と、ここまでは良くある「カード当て」の手順ですが、ここで紹介するトリックでは、半分を裏向き、残りの半分を表向きにしてシャッフルしてしまいます。あなたが選んだカードは、表なのか裏なのかさえわからない状態で混ざっています。

「どうやって当てるんだろう?」と考えていると、マジシャンは今混ぜたばかりのデックをテーブルに広げました。当然裏表バラバラのはずですが、、、ん?すべてのカードが表向きに揃っています。「なんで?いつの間に?」と思って、よく見てみると一枚だけ裏向きのカードがあります。

マジシャンがそのカードを裏返すと、あなたが一番はじめに覚えておいたカードなのです。


TRIUMPH (Dai Vernon)

STARS OF MAGIC (日本語版)
p.24

考案者であるダイ・バーノンの原案です。ダイ・バーノンらしくとても自然な形でマジックが進んでいきます。裏表をバラバラに混ぜたわけですから、当然その混ざった状態を見てみたいというのが観客の要望になるわけですが、ダイ・バーノンの手にかかれば、この「バラバラの状態を確認する行為」そのものにトリックを溶け込ませてしまいます。

また、冒頭においてこのトリックで使用されるシャッフルについて、詳細な説明があります。(2004.05.04)

Triumph (Dai Vernon)

カードマジック事典
p.150

考案者であるダイ・バーノンの原案の手順を高木重朗氏が詳しく解説しています。習得された方が噛み砕いて解説して下さるのは、本当にありがたいものだと実感させられる内容です。見開き2ページに渡って解説されていますが、特にコメントも無くあっさりと次のマジックの解説に行ってしまうので、私はこの本に Triumph が解説されていることを見逃していました。(2004.05.04)

トライアンフ (Dai Vernon)

奇術入門シリーズ カードマジック
p.182

ダイ・バーノンが Stars of Magic に発表した時の文章をほぼそのまま翻訳した内容です。内容は Stars of Magic (日本語版) と同じですが、高木重朗氏が翻訳しただけあって、とても自然な日本語で記述されています。特に原案が発表された時には、「手順」だけではなく「話し方」も一緒に発表されており、そのニュアンスがうまく翻訳されているので原案に忠実な Triumph が勉強できるようになっています。(2004.05.04)

私案 トライアンフ
〜My Triumph〜

松田道弘のマニアック・カードマジック
p.44

松田道弘氏による改案です。カットしながら表裏を確認する動作を省略することで、「混ぜた直後に観客のカード以外を一瞬にしてすべて裏向きに揃える」というインパクトの強い作品に仕上がっています。図解入りで6ページに渡って解説してあるのでじっくりと勉強できます。

この本では「トライアンフ現象」と「4枚のAの出現」という2つのテーマを組み合わせた作品(Triumph Aces)を続けて解説しています。更には、原案の Triumph の手順を理解していることを前提として「トライアンフの考え方」というページがあります。このページでは原案の手順をスムーズに行うための極意が書かれています。(2004.05.04)

トライアンフ

ロベルト・ジョビーのカード・カレッジ3
p.176

ジョビー氏が解説するこの手順は、ヴァーノンの手順とは若干違う部分があります。トライアンフの解説としては3ページですが、この手順で使用されるシャッフルについては、同じ本の別のページで4ページに亘って詳細に解説されていますので、合計7ページもの詳細な手順解説になります。ここまで詳しい解説を載せた本は他に無いかもしれません。どれか一冊でトライアンフをものにしたいなら、迷わずロベルト・ジョビーのカード・カレッジ3をお勧めします。

解説の最後に1ページまるごと使ってトライアンフに関する背景や細かなアドバイスをまとめた「ファイナル・ノート」があります。この「ファイナル・ノート」の中でジョビーは「ヴァーノンの方法が未だに最も直接的で、怪しいところが無い」と言い切り、ヴァーノンの手順を勧めています。とは言え、私はジョビーの方法にも怪しい印象を受けていません。あえて言うならヴァーノンの方が時代に関わらずパーフェクトであり、ジョビーの方は現代的なスマートさを表現していながら原案のパーフェクトさをほとんど損なっていない、というような印象を受けました。

個人的に最も感銘を受けたのは、同じく「ファイナル・ノート」に記述されている一文でした。トライアンフをフォールス・シャフルの一種のように使用できるという発想には、目から鱗でした。(2006.06.18)

愛情とお金

スーパークロースアップマジック 前田知洋 奇跡の指先
演技 : Disk1/Chapter2

前田知洋氏によるパフォーマンスが収録されています。お金をダイヤ、愛情をハートのカードで表現して「愛情とお金のどちらが重要ですか?」という問いかけから始まる前田氏の有名な手順「愛情とお金」。その作品の前にトライアンフが演じられています。

選んだカードを戻してもらってからではなく、好きなカードを一枚宣言してもらってから手順を始めます。つまりマジシャンが誘導して一枚を選ばせるような事はなく、100%選ぶ人の自由選択でカードが決定される事になります。裏表を混ぜるときの技法はジョビーの手順と同じです。混ざった状態を見せる時のディスプレーは6つのパケットに分けることで全体的にバラバラである事を強く印象付ける、説得力のある見せ方になっています。(この見せ方はダローの考案だそうです)最後に全てのカードの向きを揃える技法は、原案者であるダイ・バーノンの方法を踏襲しています。いいトコ取りですね。最後に、全てのカードを裏向きにリボン・スプレッドすると、最初に宣言してもらったカードだけが表向きで現れるという現象はやはり強烈です。

もう一度同じ手順を繰り返しますが、最後には宣言してもらったカードと同じ数字のカードが4枚揃って表向きに現れます。マジシャンがカードを自由にコントロールするというイメージを強烈に印象付ける演出になっています。

この4枚のカードを使って、自然に「愛情とお金」の手順に入っていきますが、それはまた別の作品です。(2007.04.07)

トータル・トライアンフ

高木重朗の不思議の世界
p.53

高木重朗氏による実用的なトライアンフ手順です。高木氏の作品の共通して見られる特徴ですが、無駄な動きを感じさせません。そして、マジックにあまり馴染みの無い人からマニアに至るまで、幅広く受け入れられるようなインパクトのある作品になっています。数多くの手順が色々なマジシャンによって発表されていますが、どうしても「カードを巧みに操っている」という印象を与えがちです。その点、トータル・トライアンフは、誰の目にも「特別な事は何もしていない」ように見えるように工夫されています。

なお、バラバラである事を見せる部分は、ダローのカッティング・ディスプレイを応用したものになっています。カッティング・ディスプレーだけで充分バラバラに見えるのですが、それをさらにバラバラにしながら回収しているように見えます。にも関わらず、やはり難しいテクニックは使われません。単純にして説得力のある名手順だと思います。(2007.10.13)

凱旋カード

ステップアップ・カード・マジック
p.101

原案の現象はそのままに、独特なシャッフルを使わなくてもできるような手順に変えられています。本のコンセプトとして「基本技法をしっかりとマスターして基礎力を養う事」が目的ですので、難しいシャッフルをしない方向で考えられたようです。ただしそれに変わる技法も若干特殊な印象を受けます。どちらも練習が必要な事に変わりはありませんので、あまりメリットは無いように感じられます。どうしてもバーノンのシャッフルに自信がもてない方には、もう1つの選択肢として試してみても良いかもしれません。ただし、若干ギルティーな印象を与えてしまうところがありますので、お勧めはしません。

4ページ程の間に10枚のイラストを添えて解説されています。全体的に詳しくて分かりやすい文章ではあるのですが、肝心のトライアンフ・シャッフルに変わる技法の部分にイラストが無いので、イメージが沸きにくいかも知れません。(2008.04.27)

いつでも演じられるカラー・トライアンフ
〜 Deluxe Anytime Color Triumphant 〜

デレック・ディングル カードマジック
p.370

デックを6つに分けて混ざった状態を見せるダローのディスプレーを使ったトライアンフ手順です。「いつでも演じられる」と銘打ってありますが、「あれこれと準備したデックを密かに持ち歩いていれば」という前提ですので、全く即席でできるものではありません。また、通常のトライアンフを良く知っている人をさらにひっかけてやろうという思惑が込められた作品のようで、不必要に面倒な部分もあります。しかし、その甲斐あって、衝撃のエンディングが待ち受けています。始めて演じるトライアンフとしては全く向いていませんが、マニアによるマニアのための作品としては面白い作品です。

マニアのための作品だからでしょうか、一部雑なハンドリングに感じるところもありますが「まぁ、その辺は自分でやりやすいようにやってよ」というノリなのだと思って割り切りましょう。イラスト5枚で3ページに渡る解説は中級者以上には充分な解説です。(2009.09.05)

四重に納得がいくトライアンフ
〜 Quadra convincing Triumph 〜

デレック・ディングル カードマジック
p.261

エド・マルローの「Triumph Triumph Triumph Triumph」にヒントを得てデックを4つに分けて示す方法を考え出したという、デレック・ディングルの作品です。順番としては、6つに分けるディスプレーが開発される前に、この4つに分けるディスプレーが考え出されましたが、6つに分けるディスプレーが広く採用されるようになった今でも、よりシンプルな印象を与えるこの方法は価値があると思います。この作品で使われる4つに分けるディスプレーは片手で行なわれますので、技術が入り込む余地を感じさせず、説得力も充分と言えます。

2ページほどの解説に6枚のイラストが添えられています。(2009.12.27)

勇気のいるトライアンフ
〜 Swindle Four-King Triumph 〜

ラリー・ジェニングス カードマジック
p.166

ラリー・ジェニングスによるトライアンフの改案です。ある程度経験を積むと、新しいアイデアに対してついテクニックで解決する方向に流れがちですが、この作品は一味も二味も違います。テクニックではなく相手の思い込みを利用するような手順です。そのため、一般の観客だけでなく、多くの知識を持っているマジシャンであっても同じように驚きを覚えるはずです。難しいテクニックは一切使用しません。特別な仕掛けも事前の準備も必要ありません。こう書くとなんだかインチキな広告のようですが、実際に簡単にできます。必要なのは僅かな練習と、図々しい演技ができるだけの勇気です。とにかく、この発想の柔軟さは素晴らしい。

4ページほどの解説に7枚のイラストが添えられています。(2010.08.15)

ライジング・トライアンフ

高木重朗の不思議の世界
p.57

高木重朗氏の作品です。トライアンフ現象の中にライジングカードの現象を織り交ぜた個性的な作品です。この作品も、アマチュアのみならず、既にトライアンフを知っているマニアでも驚くような仕上がりです。先述の「トータル・トライアンフ」が基になっていますが、技術的な難易度は上がっています。トータル・トライアンフもしっかりとした作品に仕上がっていますが、技術的に余裕のある人や、もっと個性的な演出を求める人には、ライジング・トライアンフはうってつけです。

現象の流れは次のようになります。まず1枚のカードを選んでもらい、デックに戻します。その後、裏表がバラバラになるようにシャッフルしたら、(印籠を見せるように)デックを右手に持ち、小さく円を描くように回します。すると選ばれたカードがスルスルとせり上がってきます。ここで一旦終わったように見えますが、デックをファンに開くと他のカードは全て裏向きに揃っています。

演技終了時点で、自然にポーズが決まっているという面でも、印象に残る作品ではないかと思います。(2011.08.14)

カラーシフト・トライアンフ

高木重朗の不思議の世界
p.60

高木重朗氏の作品です。トライアンフ現象の後に、デックの裏の色が全て変わってしまうという現象を付け足した意欲作。蛇足と言えば蛇足ですが、インパクトは絶大です。既にトライアンフ現象を多く見ている相手には効果的かも知れません。これほどの現象を起こすにも関わらず、一貫して難しい技法を排除した手順である事は、特筆するべきところです。

裏表がバラバラである事を示す場面や、クライマックスで観客が選んだカード以外が全て表向きに揃っているところを見せる場面は、片手で行なわれるため、公明正大な印象がより強まっています。最後はリボンスプレッドの状態ですので、そのまま、スプレッドを裏返す事で、ドラマチックにカラーチェンジ現象を演出できます。

現象から原理を類推されやすいという欠点はありますが、そもそもタネを知りたがる相手でなければ、存分に楽しんでもらえる作品でしょう。3ページでの簡単な解説ではありますが、6枚のイラストが添えられていますし、そもそも難しい技法が含まれていませんので、理解しやすい解説です。(2011.08.20)

Open Triumph

ファット・ブラザーズ 第2巻 日本語字幕版
演技 : Disk1/Title3/Chapter4
解説 : Disk2/Title3/Chapter5

ダニー・ダオルティスによる、目から鱗のトライアンフ作品です。スペインのSEI(マドリッドのマジック協会)での本人の演技が収録されています。

裏表バラバラにシャッフルし、ファンに広げます。確かに裏表バラバラな状態が確認できます。観客に選んでもらったカードを中央に裏向きに差し込みます。この時もファンにしたままです。裏表バラバラなデックの中央に間違いなく選ばれたカードが差し込まれているのが、誰の目にも明らかです。

その後、観客のカード以外の裏表をどうやって揃えるのか?アヤシイ事は何もしません。ただファンを閉じて、もう一度開きなおすだけです。その一瞬で中央のカード以外は全て表向きに揃います。その中央のカードは、もちろん観客が選んだカードです。難しい技術も少なく、これほどインパクトのある現象はなかなかお目にかかれません。いくつものトライアンフ作品を見てきた人であっても、声を上げて驚く作品です。

また2枚目のDVDでその解説もされています。
※ この解説中、隣に座っているミゲル・アンヘル・ヘアーの衣装がとんでもない事に。 (2013.06.15)

誠実なトライアンフ
〜 The Truthful Triumph 〜

ラリー・ジェニングス カードマジック
p.175

ラリー・ジェニングスによるトライアンフの改案です。「誠実な〜」と冠せられている意味は(極力)嘘をつかないという意味です。物理的には起こっていない不思議な現象を、実際に起こっているように見せるわけですから、少なからずセリフには嘘が混じってしまうものですが、それを極力抑えた作品です。裏表がバラバラになっている事を見せる場面では、「場所によっては表と表が重なっています」とか「裏と裏が重なっているところもあります」という類のセリフが出てきますが、実際にそのような状態になっているので嘘はついていません。そしてその直後には、ちゃんとトライアンフ現象が起こります。

3枚のイラストで2ページでの解説ですが、それだけシンプルな手順で実現できます。(2013.08.03)

公明正大なトライアンフ

ホァン・タマリッツ カードマジック
p.244

ホァン・タマリッツの改案です。それまでの作品の多くは裏表のパケットを混ぜ合わせるタイミングで工夫をするものが多いですが、この作品では、混ぜ合わせる前に主要な操作は終わっています。そのため、混ぜ合わせる部分を公明正大に見せることができます。一般の観客にとっても不思議ですが、混ぜ合わせるタイミングに目を凝らしているようなマジシャンであれば、さらに不思議な感覚に襲われる事でしょう。かといって、マジシャンを引っ掛けるために作られた作品ではないので、無駄に高度な技法を使っているわけでもありません。

見た印象はシンプル。手順もシンプル。難しいテクニックも必要としません。それでいて、一般の観客のみならず、マジシャン相手でも充分に通用するレベルの作品に仕上がっています。(2013.10.20)

A Cheeky Triumph

ファット・ブラザーズ 第2巻 日本語字幕版
演技 : Disk1/Title3/Chapter9
解説 : Disk2/Title3/Chapter10

クリスチャン・イングブルムの改案です。テクニックに依存せず、大胆な解決策でトライアンフ現象を実現します。かなりの枚数のギミックカードを使用する大胆な発想ながら、1つ前の演技の途中で自然にすり替えを完了しておく事ができるので、トライアンフ現象自体は簡単に実現できるようになっています。現象もとてもクリーンです。テーブルにリボンスプレッドしたカードから自由に1枚を選んでもらい、元に戻します。デックを揃えたら半分にわけて表裏が混ざるようにシャッフルします。裏表のカードがランダムに混ざった状態をスプレッドして見せます。一度デックを揃えたら、再びスプレッドするだけで相手が覚えたカード以外全部が裏向きに揃っています。怪しい動きは一切ありません。

1つ前に演じる作品がとても重要です。(2014.03.29)

Quick Triumph

ファット・ブラザーズ 第2巻 日本語字幕版
演技 : Disk1/Title3/Chapter2
解説 : Disk2/Title3/Chapter3

ダニ・ダオルティスの改案です。トライアンフという名前は付いていますが、相手のカードを当てる部分は省略されています。単に裏表をバラバラにまぜた次の瞬間、全ての向きが揃うというフラリッシュ的な演出です。カード当ての要素を省略した事で驚異的なスピードで現象を達成できます。演技時間は10秒もかかりません。まさに Quick Triumph。これをノーマル・デックで難しい技法も使わずに実現するアイディアが素晴らしい。(2014.04.06)

Open Triumph

パスト・ミッドナイト第1巻:カード・マジック 日本語字幕版
演技 : Title4/Chapter7
解説 : Title4/Chapter8

ベンジャミン・アールの改案です。特徴的なのは観客に選んでもらう1枚のカードの扱いです。引いてもらうのではなく、口頭で言ってもらうだけです。しかも、そのカードを探すこともせずに半分に分けたデックを裏と表にしてシャッフルし始めてしまいます。観客から見たら、自分の宣言したカードが裏なのか表なのかも分からない状態でバラバラに混ぜられてしまった状態です。不可能性がより高まる興味深い演出です。その解決方法がまたとても個性的で、ここに書けないのがもどかしいところです。

Triumph ですから、最後に観客が選んだ1枚のカードだけが表向きになるわけですが、広げてすぐに出てくる方法と、一旦違うカードが出てきてから観客のカードに変化する方法の2通りが解説されています。(2014.05.25)

BEHIND-THE-BACK TRIUMPH°

ジョン・ガスタフェロー カードマジック
p.153

ジョン・ガスタフェローの改案です。数多くの改案の中でも、観客の受けるインパクトは群を抜いています。まず観客に好きなカードを言ってもらいます。言ってもらうだけです。その間、マジシャンは他の観客たちにデックの並びがバラバラであることを見せたり、シャッフルしたりと、何気なくデックを扱います。その流れのまま、裏表までごちゃごちゃになるように混ぜてしまいます。さらにこの後、裏表ごちゃごちゃのデックを観客に渡してしまいます。受け取った観客は、デックを背中に回し、何枚かのパケットを持ち上げてひっくり返す作業を何度か行います。ここまで徹底的に混ぜたにも関わらず、デックの状態を確認すると、すべてのカードの向きが揃っています。もちろん、始めに観客が言った1枚のカードを除いて。

この現象が、さほど難しい技法を使わずに実現されています。とはいえ、得意気に演じるのは間違いです。マジシャンの力で起こした現象ではなく、観客の手の中で起こった奇跡として表現しないと、筋が通りませんので。演技後には盛大な拍手が期待できますが、その拍手は後手に操作してくれた観客の方に向くようにしたいものです。(2015.08.23)

BALLET STUNNER°

ジョン・ガスタフェロー カードマジック
p.159

ジョン・ガスタフェローの改案です。自身が考案した"Ballet Cut"と、ボール・ハリスの"Color Stunner"のアイディアを組み合わせることで、視覚的に派手なカラーチェンジ現象と、選ばれたカードの裏面のデザインを変えられる、感知できないレベルのスイッチが実現可能になります。このアイディアを Triumph の形に組み上げた作品が "Ballet Stunner" です。Triumph 現象にカラーチェンジを付加するのは一見蛇足なようですが、驚きの連続を演出するには効果的です。

まず、箱から赤裏のデックを取り出し、よくシャッフルします。表向きにしてドリブルオフしながら観客にストップをかけてもらって、1枚のカードを決定します。このカードをデックの中ほどに戻したら、裏表がバラバラになるようにカードをシッフルします。しかし、指を鳴らして、その直後にカードを開くと全てが表向きになっています。中央にある1枚のカードを除いて。もちろんその1枚は、はじめに観客が選んだカードです。赤裏の観客のカードをよく見てもらったら、再びデックに戻し、デック全体を空中で半回転させるように投げ上げます。すると、手に落ちてきたデックは全てが青裏に変わっています。すかさず、デックを開いてみると、中央には先ほど戻した観客のカードがちゃんと挟まっています。観客のカードを挟んだまま、残りのカードの裏の色がすべて変わってしまうのです。ところが、、、中央の観客のカードを引き抜いて、裏返すと、そのカードも青裏に変わっています。結果的にすべてのカードの裏模様が変わり、観客に手渡しすることも可能な状態に成っています。(2015.08.30)

PERSONAL TRIUMPH

マイ・シリー・トリックス 日本語字幕版
演技 : Title1/Chapter21
解説 : Title1/Chapter22

ヘクター・マンチャの個性的な改案です。レナート・グリーンのあるアイディアをアレンジして、トライアンフ現象に生かしています。見慣れないシャッフルというだけで敬遠する人もいるかもれませんが、乱雑に混ぜた印象を与えるので、トライアンフ現象にはちょうど良い方法だと思います。一般の方だけでなく、マジシャンをも欺く狡猾な改案です。

アイディアも然ることながら、そのアイディアを飄々と演じるヘクター・マンチャのキャラクターがまた良いです。演技中には観客の意識の ON / OFF をうまくコントロールしつつ、OFF の時にさりげなくトリックが紛れ込んでいます。そんな OFF の使い方のひとつの見本として、ぜひ演技を見ていただきたいところです。ひとつ余った OFF のタイミングで、ウォッチ・スチールを挟んでしまう茶目っ気ぶり。観客もマジシャンであることを踏まえたジョークでしょうが、いろいろと勉強になる映像です。(2017.06.11)

私案トライアンフ

松田道弘のクロースアップ・カードマジック
p.135

松田道弘氏による改案です。奇を衒ったものではなく、印象はバーノンの原案に近いです。難しいテクニックを使わずに、ターンノーバーやカット、シャッフルといった、よく見かける普通の動作だけで現象を起こします。特に、混ざっていることを確認するフェーズでは、目立つ動きを入れずに説得力のある見せ方を実現しています。この部分は、ご本人曰く「マイク・スキナーにほめてもらいました」とのことで、それも納得です。混ざっていることを見せる方法として解説されていますが、特定のカードをコントロールする技法としても使えそうな、面白いアイディアです。

5ページにわたる、14ステップに分けての詳細な解説で、15枚のイラストも理解を助けてくれます。また、解説が始まるまでの2ページに、トライアンフの歴史的な流れや、特筆すべき作品について触れられているのも、とても参考になります。(2017.06.25)

時間のかかるトライアンフ

加藤英夫のトリック・デック・ミラクルズ
p.121

加藤英夫氏による改案です。この本では続けてさらに2つの作品を紹介することで、作品ごとの個性の違いが解説されています。まずはその基本になるひとつがこの作品です。また、トリック・デックをテーマにした本ですので、あるトリック・デックが使われるわけですが、ストーリーの面白さが秀逸ですので、これだけを採用してノーマルデックで演じても一つの作品になります。(2017.10.15)

時間のかかるトライアンフ・プラスα編

加藤英夫のトリック・デック・ミラクルズ
p.123

前述の作品にさらに現象を追加した作品です。まだ揃いきっていない中途半端な状態を一度見せることで、「時間がかかる」という現象に説得力を持たせつつ、インパクトを高めています。また、一度揃いきっていない状態を見せてから少し間を置くだけで、本当に何もせずに揃ってしまうところを見せられるのは、トリック・デックを使っているからこそできる芸当です。市販されている有名なデックですが、これをこのような用途に使う発想が素晴らしいです。なお、この作品は、付属のDVDで本人の映像を見ることができます。(2017.10.15)

時間のかかるトライアンフ・完結編

加藤英夫のトリック・デック・ミラクルズ
p.125

この作品は、前述の2作品を踏まえて、さらにスピーディーでインパクトの強い印象になっています。具体的な方法は省かれていますが、それまでの話の流れで充分に理解できるだけの情報は書かれています。完結編といっても、3作品のうちで最も完成度が高いという意味ではなく、3つのやり方を紹介することで、構成次第で別々の味わいを醸し出せることの例として紹介されているようです。(2017.10.15)

エニイナンバー・トライアンフ

加藤英夫のトリック・デック・ミラクルズ
p.135

観客が選んだカード一枚で行うトライアンフではなく、観客が指定した数字の4枚を使って行うトライアンフです。トライアンフ現象をおこすには、特定のカードとそれ以外を別々にコントロールする必要があります。観客一枚のカードを抜いてもらった場合は、その一枚とそれ以外のカードを別々にコントロールするだけですので、さほど難しいことはありません。しかし、観客が口頭で指定したカードを扱うとなると、急に難しくなります。まず、指定されたカードを密かに見つける必要があるからです。ところが、この加藤氏の改案では、観客が指定した数字の4枚を扱います。例えば観客が3と言った場合は、全てのマークの3を密かに見つけ出し、その4枚を他のカードとは別々にコントロールすることになります。文章で表現するとほぼ無理に思えるこの現象も、あるトリックデックを利用する事で解決しています。

この作品については、付属のDVDで本人の演技を見ることができます。(2017.10.22)

アフター・ザ・トライアンフ

加藤英夫のトリック・デック・ミラクルズ
p.170

市販の [Unexpected Triumph] に対する改案です。このデックで実現できることは無数にあり、その中でも強烈な印象を与える現象が広告動画として採用されたのでしょうが、加藤氏はいくつかの問題点を指摘しています。しかし、手順構成の問題でありデック自体に施されたアイディアは創作意欲を刺激するものがあります。おそらく、様々なアイディアが頭をよぎったことと思いますが、広告動画の現象を改良することに専念した手順が解説されています。いくつかの問題点の中でももっとも気になるのは、トライアンフ現象とカラーチェンジ現象が同時に起きてしまっていることです。現象をより強烈にしようとした結果、かえって現象が濁ってしまう典型例でしょう。

原案の現象についてはネットで検索すれば動画が見られますので、現象が重なっているのが確認できます。それに対して加藤氏の改案では、トライアンフ現象を一旦完結させて、その後にカラーチェンジング現象を起こしています。この改良だけでも発表の価値があると思いますが、特筆すべきは、技術的な難易度まで下がっており、演じる側にとっても、見る側にとってもメリットが生まれていることです。この作品については、付属のDVDで本人の演技を見ることができます。(2017.11.05)

Triumph Outdone

Stars of Magic Vol.3
演技 : Title1/Chapter2
解説 : Title1/Chapter3

フランク・ガルシアの改案です。怪しげであまり綺麗には見えないシャッフルと、ダローのディスプレーを取り入れた手順です。それ以外に特徴はなく、Outdone と名付けるほどの魅力は感じませんでした。純粋に現象を見てくれる観客が相手なら、この手順はお勧めしません。ただし、マジックの知識に乏しくて、かつ疑り深い相手には、とてもインパクトのある手順だと思います。そういう意味ではマジック初心者が飛びつきたくなるような手順かもしれません。

怪しげであまり綺麗には見えないシャッフルについては、ガルシアが演じる分には不自然にはなりません。彼はこのシャッフルを他の作品でも多用していますので。彼だからこそ成立する手順です。この手順を見たまま真似てしまうと、とても違和感のある演技に見えると思います。(2018.09.02)

Real Triumph

Here & Now
演技 : Disk1/Title8/Chapter1
解説 : Disk1/Title12/Chapter1

ダニ・ダオルティスらしい大胆な改案です。トライアンフの改案は数え切れない程たくさんありますが、多くは「いかにして、より混ざっているように見せるか」そして「どのように揃えるか」の2つのポイントに知恵が絞られます。ダニもいくつかそういった改案を発表していますが、この「Real Triumph」は、観客に混ぜさせるところから始まります。つまり混ぜる時点ではコントロールできません。それを本当に元に戻して全てのカードの向きを揃えるので、「Real Triumph」と名付けたのでしょう。現象に対して直線的なアプローチです。

正直、実演する気にはなれません。もし本で読んだのなら実現不可能な机上の空論として片付けてしまうところです。スマートとは言い難い強引な解決策にも思えます。しかし、だからといって実演不可能だというのは、ただの言い訳なのかもしれません。ダニは実演しているのですから。(2018.12.31)

4 Faces North

ジョン・バノン カード・トリック
p.31

Triumph の特殊なバージョンです。裏表のパケットを噛み合わせてシャッフルし、直後にリボンスプレッドすると、裏向きに揃っており、さらにスプレッドの中央に4枚のエースだけが表向きになっているという現象です。ノーマルデックで実演できる作品ですが、事前に多少の準備が必要です。一つ前に解説されている [Counterpunch] を演じた後の状態が、都合よく [4 Faces North] の準備状態になっていますので、続けて演じるのが良さそうです。(単発で演じるのはあまりオススメしません)

手順自体には、冷静に考えれば、おかしな点がいくつかあります。しかし、現に実演されている作品ですし、気がつかれるレベルではないのかもしれません。錯覚をも有効に取り入れた、ちょっと勇気のいる作品です。(2019.04.20)

The Bannon Triumph

ジョン・バノン カード・トリック
p.311

タイトル通り、ジョン・バノンの作品です。トライアンフにちょっとした味付けを施したもので、本家のバーノンのトライアンフの後に続けて演じても効果的な作品です。観客に1枚のカードを選んでもらった後、残りのデックを裏表バラバラに混ぜていきます。そして、観客が選んだカードだけが裏向きになるのではなく、観客が選んだカードと同じスーツのカードが全て裏向きになります。選ばれたカード1枚だけが裏向きになった方が良くないか?と思う方もいるかもしれませんが、それは無理なのです。なぜなら、その1枚はまだ観客が持ったままだから。。。デック全体をひっくり返してスプレッドすると、観客が選んだカードと同じスーツの12枚だけが表向きになっていますが、なぜか順番まで綺麗に揃っています。そして1枚だけ抜けているカードこそ、観客がまだ手に持っているカードです。

展開の都合上、サカートリック風の気まずさが流れる瞬間がありますが、それを楽しい雰囲気に変えられる技量があるなら、オススメの作品です。(2019.06.15)

トゥー・シャフル・ハリー
〜 TWO-SHUFFLES HARRY 〜

ブラザー・ジョン・ハーマン カード・トリック
p.131

ブラザー・ジョン・ハーマンの作品です。観客に2枚のカードを覚えてもらったあと、裏表もバラバラになるようにシャッフルします。さらにデックをよく混ぜながら2つに分けてテーブルに置きます。観客のカードを聞いた直後に2つのパケットをスプレッドすると、全てが裏向きになっているうえに、観客の2枚のカードがそれぞれのパケットから表向きに現れます。しかも、残った裏向きのパケット2組は、それぞれ赤と黒に分かれています。

実際にカードを持ってやってみれば確かにそうなり、原理を理解して演じていても不思議な感覚に陥ります。 1987年の「Richard's Almanac」Vol.3 に載っている作品だそうです。(2019.06.22)

Last Man Standing

ジョン・バノン カードマジック
p.165

ジョン・バノンの改案です。表向きのパケットと裏向きのパケットを噛み合わせて半分ほど差し込みます。表面の方をリフルしてパケット全体が表向きであることを確認してもらい、ひっくり返して裏面の方のパケットをリフルして全てが裏面であることを確認してもらいます。半分程度差し込んでおいたパケットを完全に揃えると、完全に裏表がバラバラに混ざったように見えますが、次の瞬間デックは全て表向きに揃い、観客のカードだけが表向きになっています。

難しい技術はほぼなくて、ちょっとした工夫を重ねて成立している作品です。それでいて、こっそりと仕込まれた意外性が、マジシャン相手でも驚きを与えられるものになっています。(2019.09.29)

Color Stunner

Stars Of Magic 1
演技 : Title1/Chapter54
解説 : Title1/Chapter55

ポール・ハリスによる、意欲的な改案です。Triumph と Color Change が融合しています。Triumph の最後の場面、表向きにスプレッドされたデックの中に、裏向きの観客のカードが入っている ところを想像してください。そのカードが観客のカードなのはもちろんですが、そのカードだけが青裏で、残りのカードはすべて赤裏に変わってしまいます。蛇足といえば蛇足ですが、基本的な Triumph を知っている人が見ても最後の Color Change 現象には驚く事でしょう。Triumph の手順の途中で何度も青裏のカードを目にしているだけに、観客のカード以外がすべて赤裏になるという終わり方には、特別な意味が出てきます。単に2つの作品を一緒にしたというものではなく、最後の Color Change のインパクトを強めるために、Triumph が一役買っているという印象です。(2019.12.08)

ダブル・トライアンフ

マジック・フロム・マイ・ハート 日本語字幕版
演技 : 2巻/Title4/Chapter1
解説 : 2巻/Title4/Chapter6

ホアン・タマリッツによる改案です。2人の観客にカードを選んでもらい、覚えたらデックの好きなところに戻してもらいます。その間、マジシャンはデックを見ていません。ゆっくりと確実に裏表を混ぜた印象を与え、混ざっている途中の様子も見せ、よく混ざっていることを観客が確信できるように誘導していきます。もちろん最後には観客のカード以外が全て裏向きになるという現象が起こるわけですが、「全てのカードが裏向きに揃う」ことと「観客の2枚のカードだけが表向きであること」という2つの現象を同時に見せてはいけない、と拘った見せ方をしています。

難しい技法はほとんど必要なく、事前の準備も必要ありません。慣れるまでちょっとややこしく感じるところはありますが、決して難しい部類の作品ではないと思います。2人の観客のカードを扱うので現象の難易度が上がっているように見えますが、2枚を同時に当てるからこそできるトリックになっています。(2020.07.25)

色鮮やかな凱旋
〜 Colour Triumph 〜

カード・マジック宝石箱
p.89

氣賀 康夫氏の改案です。トライアンフに裏模様の色変わりの要素を加えたのは Derek Dingle であると書かれています。著者はアメリカ滞在中に、たまたまイギリスから渡米していたデレック・ディングルと交流を深める中で、当時のディングルの代名詞的な手順を改案して、本人に提示されたそうです。本人の評価を得て発表の許可も得られたものの、発表する機会がなく、50年の時を経てこの本でようやく発表に至るという背景があったそうです。

青裏のデックを使ってちょっとした前奏曲的な作品を行います。実はこの時に最後のカラーチェンジのための伏線が張られています。ですがその効果をすぐには発揮せずに、間奏曲的な小品を挟みます。この辺りの策略が最後のカラーチェンジを効果的に演出しています。前奏曲・間奏曲を経て主題に至るまでのすべてが解説されています。50年にわたる著者のアイディアの数々が詰まった逸品です。(2023.10.22)