garamanのマジック研究室

Yggdrasil

「YGGDRASIL (ユグドラシル)」
北欧神話における全世界を覆い尽くす巨大な木。その巨木を支える根は3つに別れ、1つは神々の世界「アースガルド」に、もう1つは人間世界「ミドガルド」へ、最後の1つは冥界「ヘル」へと繋がっている。そんな壮大な世界をマジックの世界に持ち込んだのがこの作品です。と、言いたいところですが、実際には北欧神話とは関係ないようです。なぜこの名前を作品のタイトルにしたのかは、原案者のセオドア・アネマンのみぞ知るところです。しかし、この作品の現象は神の域です。メンタル・マジックの神と呼ぶに相応しいアネマンが生み出した、ひとつの作品。「YGGDRASIL」と名付けたのも頷けます。

この作品で使われるのはESPカードです。5種類のカードのうち、観客が覚えたカードをズバッと当てます。カードを選び出すわけでもなく、声に出すでもなく、ただ心に思っただけのカードを当てるのです。さらに、テーブルに並べた5枚のうち1枚を、マジシャンが見ていない状況で覚えたのにも関わらず、やはりズバッと当ててしまいます。最後には、観客が自由にシャッフルしたカードを、マジシャンのポケットに入れ、別の観客に1枚選ばせますが、ポケットからカードを抜き出す瞬間に、そのカードの名前をズバッと言い当てます。


アネマンのESPカード・ルーティーン

あそびの冒険 全5巻
「2 超能力マジックの世界」p.199

1930年代にアネマンが発行していた雑誌「ジンクス」に発表された手順です。松田道弘氏によって淀みなく解説されています。

原案者本人の手順ですから、上記に書いた現象そのままです。最近ではESPカードの入手も容易ですし、通常のESPカードでできるものですから、発表当時よりは身近な存在になったのではないでしょうか。メンタルマジックの中でも最高傑作といわれるものの1つですから、これをものにしない手はありません。解説されているこの本自体の入手が困難かもしれませんが。手順自体は、テクニックを感じさせないつくりになっていますので、当然超自然的な力で当てていく演出になります。他のカードマジックとはハッキリと区別して、雰囲気たっぷりに演じる事をオススメします。(2010.03.20)

軍神を乗せて
〜 YGGDRASIL 〜

テクニカルなメンタルマジック講座
p.89

このシリーズにしては珍しく、原案の手順をそのまま解説してあります。部分的に荒木氏のアイディアを少し紹介している部分もありますが、基本的にはアンネマンの作品そのものと考えて差し支えないと思います。

第一弾の手順で、後ろ手に持った5種類のカードから1枚のカードをポケットに入れ、残りの4枚をテーブルに置く部分がありますが、荒木氏のアドバイスでは、順番を逆にして4枚のカードをテーブルに置いてから、残りの1枚をポケットに入れたほうが流れがスムーズだと説明されています。ただし、これでは残りの1枚をポケットに入れる理由付けがなくなってしまいます。観客とのやり取り次第でいくらでも回避できる事ですが、単純に荒木氏の意見を採用すると、観客から見た現象が濁ってしまいますので注意が必要です。工夫ができないようなら原案のままの方が良いでしょう。

原案の手順を知る上では、7ページで12枚のイラストを添えた充実の解説と言えます。(2010.03.28)