garamanのマジック研究室

Coins Through The Table

テーブルの上には4枚のコイン。使うのはそれだけです。左手に4枚のコインを握り、右手はテーブルの下ですり抜けてくるコインを待ち受けます。左手の4枚のコインをテーブルに叩きつけると、そこには3枚のコインしかありません。テーブルの下で待ち受けていた右手をテーブルの上に持ってくると、右手には確かに1枚のコインが乗っています。続けて、左手には3枚のコインを握り、右手には先ほど通り抜けた1枚のコインを持って、再びテーブルの下で待ち受けます。左手をテーブルに叩きつけると、そこには2枚のコインしかありません。先ほど1枚だけを持ってテーブルの下で待ち構えていた右手をテーブルの上に持ってくると、なぜか2枚のコインが握られています。2枚目のコインも通り抜けたようです。同じように、3枚目・4枚目のコインも通り抜けてしまいます。

テーブルを貫通する現象はいくつかありますが、私のサイトでは以下のように分類しています。

Coins Through The Table コイン・スルー・ザ・テーブル
テーブル上のコインが1枚ずつ貫通する現象
Han Pin Chien ハン・ピン・チェン
テーブル上のコインが複数枚同時に貫通する現象
Kangaroo Coins カンガルー・コイン
コインがテーブルを貫通して、テーブル下のグラスに飛び込む現象

The Magical Filtration of Four Half Dollars

MODERN COIN MAGIC
p.193

ダイ・バーノンの Kangaroo Coins の元になった、アル・ベイカーの作品です。これはこれで完成された名作です。

一見同じことを4回繰り返しているようですが、それぞれ少しずつ違う方法で実現しているのが特長です。勘の鋭い観客なら一瞬「見抜いた!」と思うかもしれませんが、確認しようと思って次の1枚の貫通現象を見ていると、違う方法で実現されてしまうので「あれ?違うのか。。。」となってしまい、追いきれない作品です。古い作品で、クラシックの部類に入るものですが、古めかしいものではなく、今でも十分通用する名作です。なお、この作品を源流にして様々な改案が作られましたが、多くの作品で見受けられる「改めすぎ」が気になる方も多いかと思います。ところが、この解説の中で、すでに必要以上のあらためはしないようにアドバイスされているのは特筆すべきところです。

また、4枚目のコインの貫通に関しては、フランク・ガルシアから提供された賢い方法も解説されています。(2016.08.14)

Coin Thru the Table

夢のクロースアップ・マジック劇場
p.72

松田道弘氏の改案です。雑誌「マニアック」に発表した「10001番目のコイン・スルー・ザ・テーブル」のハンドリングを少し変えたものだそうです。

貫通現象の原理は4回とも違います。原案でも4回とも違う方法で貫通させますが、そのどれとも違う4つの方法が取り入れられています。原案と比べてどちらが良いかという感覚で見るのではなく、単に実験的なチャレンジとしてみると、面白い試みだと思います。こういうアイディア合戦を見るのも、マジック研究の楽しみのひとつです。この作品から派生した、ダイ・バーノンの Kangaroo Coins などの作品が多く生み出されているため、実際に演じる人は少なくなった印象ですが、4枚のコインだけで行う原案のプロットの魅力を改めて感じさせてくれる手順です。

7ページにわたって10枚のイラストを添えての解説です。(2016.08.20)

コイン・スルー・ザ・テーブル

クロースアップ・マジック
p.71

ほぼアル・ベイカーの原案手順ですが、松田氏のちょっとした工夫がいくつか見られます。

例えば、左右の手に2枚ずつのコインを握った時の音の演出は、原案よりも少し説得力のあるものになっています。また、4枚目のコインの貫通にいく準備段階でも、原案のギルティーな動きを排除して、ハン・ピン・チェン・ムーブを取り入れています。いずれもちょっと説得力を増すためには効果的な工夫です。

10ページにわたって22枚のイラストを添えての充実した解説です。原案に近い手順を日本語で解説したものとしては、これが一番わかりやすいと思います。(2016.09.04)

Coins Through the Table

MODERN COIN MAGIC
p.276

ミルトン・コートの改案です。たった1枚のギミックコインを導入することで劇的に効果を高めています。

観客の目の前で4枚のコインを積み上げ、そのコインスタックに小さなウィスキーグラスを被せます。その瞬間、1枚のコインがテーブルを貫通し、テーブルで待ち構えていたマジシャンの左手に落ちてきます。ウィスキーグラスを退けると、そこには確かに3枚のコインしかありません。ウィスキーグラスにより周囲と隔絶された状態、かつ中が見える状態にも関わらず、この現象が起こります。2枚目・3枚目も同様に貫通させます。4枚のコインを観客の手のひらに乗せ、数を検めてもらいます。マジシャンが1枚取り除き、残りの3枚を握っていてもらいます。最後のコインはマジシャンの手から消え、観客の手の中に戻っています。

2ページ半程度の解説ですが、6枚のイラストが添えられており簡潔でわかりやすくまとまっています。(2016.10.30)

COVER UP

SELF-WORKING COIN MAGIC
p.60

Yank Ho の Sympathetic Coinsを簡略化した作品と前置きされていますが、現象の見た目から Coins Trough The Tableに分類しました。

4枚のコインを四角形に並べて、そのうちの2枚のコインを2枚のカードで隠すところから始まりますので、Sympathetic Coins のような印象を受ける作品ではあります。しかし、その後見えているコインの1枚を右手に持ってテーブルの下に移動し、テーブルに叩きつけるとテーブル上のカードの下から現れる、という現象です。つまりテーブルを下から上に貫通して、カードの下に移動するのです。これを続けて最終的には全てのコインが1枚のカードの下に集まります。

難しい技法はほとんどなく、即席にできる作品です。(2020.06.14)

コイン・スルー・ザ・テーブル 第一部

コイン・マジックへの誘い
p.69

氣賀氏による洗練された手順です。石田天海氏の前で演じた時に「私が見ても不思議に見えてしかも種が全然わからない。」と言わしめた手順です。それもそのはず、最も自然な動作で、最も不思議に見えることにこだわり、60年もこのテーマに取り組むほどの力の入れようです。当時、天海氏の前で演じた手順なのか、さらに洗練させた手順なのかは不明ですが、細部にまでこだわった名手順が解説されています。4段階の全てで違う方法を採用したことによりタネを追うのは非常に難しくなっており、さらに技法的な難易度もさほど高くなく自然な動作で演技ができる作品です。(2022.05.29)

コイン・スルー・ザ・テーブル 第二部

コイン・マジックへの誘い
p.81

Coins Through The Table は4枚のコインを一枚ずつ貫通させる現象ですが、滑らかに実演すると20秒ほどで完結してしまいます。盛り上がりかけたところでエンディングを迎えてしまうような印象があるせいか、多くのマジシャンがこの後、枚数を減らして3枚で実演し、さらに減らして2枚で実演する、といった演出をしています。こういった演出に興味を持った著者が1960年頃から研究を続けて、たどり着いた一つの完成形が解説されています。第一段で終わりにしても充分ではありますが、まだこの現象を楽しんでくれそうな相手であれば、第二段を取り入れるとさらに盛り上がるでしょう。著者の手順では、最後にたった一枚のコインを貫通させ、しかも貫通したコインがジャンボコインに変わるというおまけ付きです。

もしユーモアが通じる観客が相手なら、第二段を演じ終えた後にそのジャンボコインさえテーブルを貫通させることができ、そのアイディアも解説されています。アマチュアマジシャン相手ならきっと盛り上がる事でしょう。(2022.06.05)