garamanのマジック研究室

Matrix

マジシャンは、テーブルに4枚のコインを正方形になるように並べます。それぞれのコインの上に1枚ずつカードを被せます。言い換えれば、各カードの下には1枚ずつのコインがある状態です。しかし2枚のカードを捲ると、片方に2枚のコインがあり、もう一方の下にはコインがありません。一瞬で移動したようです。2枚のコインが集まった場所にもう一度カードを被せます。今被せたばかりのカードと、3枚目のコインの上に被せられているカードを捲ってみると、一方には3枚のコインが集まっており、もう一方にはコインが無くなっています。3枚集まったカードにもう一度カードを被せます。最後に、3枚が集まった箇所のカードと4枚目のコインに被せられたカードを捲ると、片方に4枚のコインが集まっています。

コインに触れずに1カ所に集めるという現象を鮮やかに決めたこの作品は、アル・シュナイダーの作品として知られています。

似た作品が多く、名前の付け方に決まったルールもないため、同じ名前が別の作品を表していたり、逆に同じ作品を違う名前で紹介したりします。私のサイトでは以下のように分類しています。

Coin Assembly コイン・アセンブリ
テーブル上でコインが1カ所に集まる現象の総称
Sympathetic Coins シンパセティック・コイン
ハンカチやマットの下等に手で移動させたコインが、ハンカチ上の一カ所に集まる現象
Matrix マトリックス
コインには触れずに、カード等で隠すだけで一カ所に集まる現象
Chink A Chink チンク・ア・チンク
コイン以外の道具を使わずに、手で隠すだけで一カ所に集まる現象

コイン・アセンブリー

基礎からはじめるコインマジック
p.124

ピックアップ・ムーブを効果的に使った習作として紹介されている手順です。技法の習得を兼ねた作品ということで簡単な方法が選ばれています。

レギュラーコインとカード4枚だけでできる手順ですが、技法の都合上クロースアップマットはあった方が良いでしょう。というわけで即席とまではいかないのが惜しい所ですが、比較的やさしくできるのは大きな特徴です。著者の二川滋夫氏が「不要な部分を削り取った一番シンプルな方法です」と言い切る、コインアセンブリーの中でも費用対効果に優れた手順と言えそうです。7ページにわたり26枚のイラストを添えて詳しく丁寧に解説されています。(2020.05.09)

スーパー・シンプレックス・メイトリクス

基礎からはじめるコインマジック
p.151

デビッド・ネイバーズの作品です。ネイバースが左利きであることを踏まえて二川氏がわずかにハンドリングを変えています。

4枚のコインと4枚のカードを使った移動現象ですが、移動する直前のカードの下のコインを見せてから、一瞬で移動するという演出ができるように工夫されています。その工夫のために1枚のギミックコインを使用しますが、コインワーカーなら誰でも持っているお馴染みのものです。難しい技法を使うこともなく、わかりやすくインパクトのある現象を起こします。ギミックコインを使ううえでのひとつのお手本のような効率的な使い方と言えるでしょう。ある種直接的なギミックの使い方ではありますので、バレやすいいと感じる人も多いかもしれませんが、このギミックコインの存在を知らない人を相手に演じるなら杞憂というものです。

7ページを割いて27枚ものイラストを添えて解説されおり、わかりやすいです。(2020.05.16)

プチプチ・マトリックス
〜COINS AND BUBBLE WRAP〜

コインがあやなす奇譚な物語
p.119

見えているコインが移動する。まるでCG。そんな現象を起こすための大胆な発想と、実現してしまう構成力に脱帽。

まずは 8cm x 16cm ほどのサイズのプチプチ(エアーキャップ)を持ったところから演技が始まります。テーブルの上で、プチプチの中央あたりをひとつ、プチッと潰したかと思うと、その瞬間にプチプチの下に1枚のコインが現れます。半透明のプチプチの下に突如現れるコインは、インパクト抜群です。その後もプチッと潰すたびにコインが現れ、最終的には4枚のコインが揃います。この4枚のコインを使ってマトリックスを演じようというのですが、カードは使いません。先程のプチプチを半分に切って使うのです。もちろん半透明ですから、コインに被せてもコインは丸見えです。しかし、そんな状況でも、左手のプチプチの下にあったコインが、一瞬で右手のプチプチの下に移動してしまいます。まさにCGを目の当たりにするような光景です。こんな調子でコインを1枚ずつ移動させて、1カ所に集めてしまうのです。

ギミックコイン は必要で準備にも多少手間がかかりますが、それを補って余りある効果が得られます。ルイス・ピエドライタ本人が、ネットに動画をアップしていますので、"COINS AND BUBBLE WRAP" で検索してみてください。(2020.05.24)

Bertram Coin Assembly

Stars of Magic 4
演技 : Chapter8
解説 : Chapter9

デレック・ディングルらしい改案です。レギュラーコインとカードを2枚使って、テクニックだけで現象を起こします。タイトルの通り、ロス・バートラムの作品に影響を受けています。

4枚のコインを怪しい手つきでポケットから取り出しマットの上に四角形に並べます。いかにも何かしていますというような動きで2枚のカードを扱い、観客側の2枚のコインに被せたところからマジックが始まります。マジシャン側に残ったコインのうちの1枚を左手で拾い上げ、右手のクラシックパームの位置にグイ〜ッと押しつけながら両手を握ります。どちらの手に持っていても不思議に見えないほどの酷いムーブですが、次の瞬間どちらの手からも消えて、観客から見て左側のカードをめくるとコインが2枚に増えています。2枚に増えたコインにはもう一度カードを被せ、残った1枚のコインを両手で覆います。テーブルを滑らせながら両手を少しずつ離していきます。どちらの手にコインがあっても不思議ではない動きですが、次の瞬間両手からは消えて、観客側の先ほどのカードをめくると3枚に増えています。マジシャン側の2枚のコインは観客から見て左側のカードの下に2度にわたって移動したわけです。左側のカードの下には3枚のコイン。はっきり確認した後にあらためてカードで覆っておきます。右側のカードは初めから一度も触れていないので4枚目のコインが残っているはずです。ところが指を鳴らした直後、左側のカードをめくると4枚のコインが集まっています。一度も触れなかった右側のカードの下が気になるところです。ゆっくりとカードをめくると、意外にもひとまわり大きなコインが現れます。

怪しい手つき満載。でも不思議。最後のコインは脈絡がなく蛇足感が否めない。でも不思議。好みの分かれる作品です。(2020.06.06)

Perceptual Matrix

パーセプション
演技 : Title3/Chapter8
解説 : Title3/Chapter9

ミゲル・アンヘル・ヘアの改案です。レギュラーコイン4枚とカードを4枚を使った手順です。道具には一切の仕掛けはありません。認知心理学的な解決方法です。コインの位置について観客の認識を誤った方向に誘うことで、ありえない移動現象を起こします。

実演映像を見て、全く引っかからない人は少ないのではないでしょうか。実験的な作品なので完成度はあまり高くないような印象を受けますが、その中で使用されている原理には目を見張るものがあります。この作品自体に納得いかない部分があるとしても、あくまでも実験的な作品と捉えるべきでしょう。この原理が強力であることは確かです。ぜひ映像で体験したうえで、この原理を活用するアイディアを考えてみてください。こういった発想がマジックを次の段階に引き上げてくれることでしょう。

解説も詳細に行われていますので、その原理を深く知ることができます。(2022.08.21)

四種のコインでリバース・マトリクス

クロースアップ・マジック コレクション
p.40

カズ・カタヤマ氏の改案です。タイトル通り、4種類のコインを1枚ずつ使うので、コインの移動現象がよりクリーンに見えます。1枚ずつ移動していき、全てのコインが1箇所に集まったと思った瞬間、全てのコインが元の位置に戻るというリバース(バック・ファイア)タイプの作品です。

この作品の系譜が明記されていました。マーク・レフリー氏が発表した「リバーシ」という作品が元になっており、それを谷英樹氏が易しくできるように改案されたそうです。「イージー・リバーシ」というタイトルで「掌PALM6号(1990年)」に掲載されたその作品は、ギミックなし、エキストラなしであるにも関わらず、易しくできるというから驚きです。そして、その谷氏の作品の、ギミックなし、エキストラなしという特徴を引き継ぎながら、さらに4枚のコインを全て違う種類に変えたのが、カズ・カタヤマ氏のこの作品です。

難しい技法はあまりなく、作品全体の難易度は決して高くありません。それでいてこのインパクト、お手本のような改案です。(2022.09.18)

Octrix

Incomplete Works
p.49

こざわまさゆき氏の改案です。ハーフダラー4枚とチャイニーズコイン4枚とカードを4枚使います。まず、ハーフダラーとチャイニーズコインをペアにして四隅に並べたところから始まります。この時点であまり見かけない光景ですので、従来の Matrix を知っている人の興味も強く惹きつけることでしょう。最終的には四隅のうちの一箇所に4枚が集まるところですが、この作品では一箇所にハーフダラーが4枚、別の一箇所にチャイニーズコインが4枚集まります。一風変わった現象ですので、他の Matrix を演じた後に続けて演じても効果的です。

この現象を、ギミックなし、事前準備なしで実現します。技法としても極端に難しいことはしていないことも特筆に対するでしょう(もちろん一定の練習は必要です)。(2022.10.01)

USD Matrix

Incomplete Works
p.62

こざわまさゆき氏の改案です。4種類のコインを使って Matrix を行います。ギミック・コインが必要になりますが、その分非常に分かりやすい現象になっています。

4種類のコインを四隅に並べて、それぞれをカードで覆います。両手で2箇所のカードを持ち上げてその下にあるコインを確認してもらった後、再度伏せますが、すぐに持ち上げ直すと2枚のコインは右手のカードの下に集まっています。同じように3枚目のコインも右手のカードの下に集まります。最後の1枚のコインも消えて右手のカードの下に移動したかと思いきや、右手のカードの下にあった全てのコインが消えています(ここのインパクトは絶大です)。四隅にはコインのないカードだけの状態になってしまいました。「コインが消えてしまったのでやり直す」と宣言して4枚のカードを避けると、それぞれのカードの下にはいつの間にか4枚のコインが戻ってきています。この後、宣言通りにやり直そうとしますが、予想に反して一瞬で一箇所に集まってしまいます。

現象に対して無駄のない効率的なギミックの使い方です。(2022.10.15)

即席・集合するコイン Olram's Instant Sympathy (Ed Marlo)

世界のコインマジック
p.186

エド・マーローの作品です。「正方形に並べた4枚のコインに4枚のカードを被せて、コインを一箇所に集める」という現象は、1970年にアル・シュナイダーが Matrix を発表するよりも前にエド・マーローが発表していたようです。その手順がリチャード・カウフマンによって解説されています。

いわゆる Matrix とは若干趣が異なります。現象を実現させるために試行錯誤した結果と思われますが、全体的に洗練されているとは言い難く、マジシャン側の都合で必要になっている動作が多く、観客の目には違和感を感じさせる箇所がいくつか見られます。(2022.10.23)

マトリックス Simplex Matrix (Ed Marlo)

世界のコインマジック
p.192

エド・マーローの作品です。アル・シュナイダーの方法と現象も方法もあまり変わらないものの、ハンドリングは多少易しくなっているのが特徴とのことです。正方形に並べた4枚のコインに4枚のカードを1枚ずつ被せますが、左上のカードをめくるとコインが消えており、右下のカードをめくるとコインが2枚になっています。同じように左下・右上のコインも1枚ずつ右下に集まっていく現象です。

使うテクニックの難易度としては確かに低めになっていると思われますが、説明のつかない怪しげな手つきが見られるのがちょっと気になるところです。(2022.11.06)

一瞬の集合 Quick Coinvergence (Ed Marlo)

世界のコインマジック
p.197

エド・マーローの作品です。Matrix として分類するにはちょっと異色の作品です。コインを1枚ずつ正方形に並べ、それぞれのコインにカードを1枚ずつ重ねていきます。両手の平を見せて、クリーンな状態を見せた直後、右上・左上・左下のカードを順次めくるとコインが消えています。最後に右下のカードを持ち上げると4枚が集まっています。タイトル通り、一瞬で一箇所に集まる現象です。ただ、コインをこっそり掬いとる場面で、いかにもコインをこっそり掬い取っているような動作になっているのが非常に気になります。それでもあっという間の現象がそれを忘れさせてくれる(かもしれない)作品です。

他の Matrix を見たことがある人に見せるには面白い現象だと思います。これからというタイミングでいきなりエンディングを迎えるような展開ですので、インパクトはあります。(2022.11.13)

どこにでもあって、どこにも無い "Tgey're Here, No-There, No Where" (Ed Marlo)

世界のコインマジック
p.200

エド・マーローの作品です。こちらも Matrix として分類するにはちょっと抵抗がありましたが、導入部を見ていれば Matrix を期待するのが自然なので、こちらに分類しておきます。4隅のコインの上に1枚ずつのカードを載せるだけ、にも関わらず3ヶ所のカードをめくるとコインは消えている。残りの1ヶ所をめくるとそこには4枚のコインが現れます。しかし、その4枚にもう一度カードをかぶせて指を鳴らし、再びカードをめくるとコインは全て消えています。あっという間の現象です。さらに4枚の使い終わったカードを重ねて持つと、それぞれのカードの下から1枚ずつのコインが現れます。

特殊なギミックが必要になりますが、それを最大限に活かした現象です。(2022.11.20)