幻影師 アイゼンハイム
THE ILLUSIONIST
舞台は19世紀末のウィーン、ハプスブルク帝国末期の頃。主人公のアイゼンハイムは、イリュージョニストとして活躍し、その卓越した才能で観客を魅了します。彼のパフォーマンスに魅せられた、もはや信者とも言える程の熱狂ぶりです。そんなある日、皇太子とその婚約者である令嬢が、彼の舞台を見るために劇場を訪れました。アイゼンハイムが観客の中から協力者を募ったところ、突然皇太子が立ち上がり、傍らに座る令嬢を推薦します。困惑しながらも彼女を舞台上に招いたアイゼンハイムは、目の前の女性が、幼い頃に身分の違いから中を引き裂かれたソフィーである事にきがつきます。ここから2人の気持ちは再燃するのですが、既にソフィーは皇太子の婚約者として周知され、政略結婚の渦中にいたのです。高いプライドと強い野心を持った皇太子の手から逃れ、アイゼンハイムとソフィーが結ばれるために、2人の策略が巡らされます。
ココから先は触れませんが、全体を通して見事な映像美で、落ち着いた趣のある映画に仕上がっています。ネット上では評価が割れているようですが、ミステリーとみるかファンタジーと見るかによって、大きな差が生まれるような気がします。批判的な声の中には「マジック部分にCGを使う事」に対する批判が多いようですが、私は映画でリアルなマジックを魅せる必要は無いと思っていますので、抵抗はありませんでした。特に「オレンジの樹」などは、1845年にロベール・ウーダンが実際に行ったマジックをほぼ忠実に再現しています。この再現の意味を履き違えないでいただきたいのですが、仕組みを再現しているわけではなく、当時の観客が受けた印象を再現しています。テレビも無い頃の観客が見た「オレンジの樹」の演技は、まさにありえない現象だったわけで、そのインパクトを再現するためにやむを得ずCGを導入しているといった印象でした。
実際のロベール・ウーダンの手順はもっと長く巧妙ですが、映画では比較的短くシンプルに表現しています。しかし、メインプロットは忠実です。オレンジの樹がひとりでに成長していく姿や、花が咲いて実がなり、その実を観客に投げ渡す手順、二匹の蝶が観客のハンカチを持ち上げて飛ぶシーンなどは、当時、ロベール・ウーダンが実際に行った演技です。プロ・マジシャンのジェームス・フリードマンが、当時の演技を丹念に調べ上げて、映画で再現するために多少の手を加えたという、とても興味深いシーンでした。
レビュー
なし