garamanのマジック研究室

Between Your Palms

ひとりの観客に1枚のカードを持っていてもらいます。この状況から別の3人の観客を相手にマジックが始まります。マジシャンはデックをリフルして1人目の観客にストップをかけてもらいます。1人目の観客はそのカードを見て覚えます。2人目の観客にも同じように1枚のカードを覚えてもらいます。3人目には自由に1枚抜いてもらい、サインをした上でデックに戻してもらいます。

今、デックの中には3人のカードが混ざっており、そのうち1枚にはサインがしてある状態です。通常ならデックの中から3人の観客のカードを当てるところですが、マジシャンはおかしなことにポケットから1枚のカードを出してきます。何とそれが3人のカードの1人目が覚えたカードです。続けて別のポケットからもう1枚のカードを取り出すと、それが2人目のカードです。これらの2枚のポケットから取り出したカードは、最初の観客に持っていてもらいます。この観客はマジックが始まる前に誰も知らない1枚のカードを預けられた観客です。最初から持たされていたカードと、マジシャンのポケットから出てきた2枚のカードの、合計3枚を持っています。

いよいよクライマックス。3人目のサイン入りのカードを当てるのですが、デックからでもポケットからでもなく、最初の観客の手の中から出して見せます。観客に預けた3枚のカードから、1人目の観客のカードを抜き出し、2人目のカードも抜き出し、残ったカードを表向きにするだけです。そう、マジックを始める前から持っていてもらったカードがなんと3人目の観客のサイン入りのカードになっているのです。

アレックス・エルムズレイの名作です。


Between Your Palms

The Magic Of Alex Elmsley 4
演技:Title1 / Chapter15
解説:Title1 / Chapter16

アレックス・エルムズレイ本人による原案の手順が実演・解説が収録されています。

手順は本文に書いたとおりです。構成の妙、といえば良いのか、タネを知っている状態で見ても本文に書いた通りの現象に見えます。過度に難しい技法が必要ないこと、4人の観客がそれぞれに不思議を体験できる点、現象のわかりやすさ、起承転結のある構成、最後のインパクトの強さ、どれをとっても申し分ない作品だと思います。これをたった1枚のギミックカードを導入するだけで実現してしまいます。

最後の観客としてカードにサインをしたマイケル・アマーが楽しそうに解説を聞いているのが印象的です。(2024.06.30)

あなたの手の間で

カードマジック大事典
p.492

アレックス・エルムズレイが1952年に Abracadabra #331 に発表した原案の手順について解説されています。1ページ半ほどのボリュームでシンプルに手順がまとめられています。

1人目の観客のカードを当てる時、デックのトップから1枚のカードをポケットに移動させてから当てるという挙動が気になります。文章による説明だけを見ると、なぜそんな見せ方をするのか、どんな目的があるのかが判然としません。実際の演技の様子を知らずにこの解説文だけを読むと、ちょっと違和感を払拭できないかもしれません。(2024.07.07)

ミステリアスなカード

テクニカルなカードマジック講座
p.139

荒木一郎氏の改案です。5人の観客を相手にした作品になっています。事前に1枚持っていてもらうカードを終始「ミステリアスなカード」として1人の観客に持っていてもらいます。残りの4人の観客に1枚ずつ選んでもらいますが、そのうちの1人だけはカードにサインしてもらいます。3枚のカードと1枚のサイン付きのカードをデックに戻し、カットやシャッフルをしながら1枚ずつ当てていきます。1枚目から3枚目までサインをしなかった人のカードを順番にあてていき、その都度「ミステリアスなカード」の上に重ねていきます。最初の観客にはひきつづき「ミステリアスなカード」だけを持っていてもらい、それ以外の3枚をマジシャンに返してもらいます。最後に、デックの中にあるサイン付きのカードを当てるべく、その数字だけをヒントに教えてもらいます(10だったとします)。それを聞いた瞬間、マジシャン が持っている3人の観客のカードは全て10のカードに変わってしまいます。それらの3枚の10にはサインはありませんので、残りのマークの10にサインされたはずです。これで最後の観客がサインしたカードが何か分かりましたが、そのカードはデックの中にはありません。最初からずっと持っていた「ミステリアスなカード」を確認するとそれはいつのまにかサインカードに変わっているのです。

原案よりも1枚多くなっていますので、単に手順を追うだけでは間がもたないでしょう。付属のCD-ROMに著者自身の演技が収録されていますが、やはり話術で盛り上げられないと難しいでしょう。(2024.10.26)