Cards Up The Sleeve
左手に持ったデックから1枚のカードが袖を通って見えない移動をし、ポケットや上着の内側から取り出される、そんな現象が繰り返される作品です。
クラシックな作品で、多くのマジシャンの興味を掻き立てたようで、様々な改案が発表されています。
カード・アップ・ザ・スリーブ
あそびの冒険 全5巻
「1 トランプ・マジック・スペシャル」p.123
この本ではひとつの章を割いて10個のクラシックマジックを取り上げており、そのなかのひとつとして [Cards up the sleeve] が解説されています。古くからある作品で、[Cards passing up the sleeve] という前座クラスの小作品であったとのことで、そのプロットの解説から始まります。どうやら、カード当ての要素を含んでいたり、移動現象を何度も繰り返すという、今の感覚では時間のかかる長めのルーティーンだったようです。
その後、デビッド・デバントが [Lessons in Conjuring] に発表した改案が非常に優れているとして、その解説をされています。カード当ての要素を省き、使用するカードも12枚に制限した上で、カードの移動現象に焦点を当てた手順です。デビッド・デバントの解説では、最後の3枚の処理の方法についてはちょっと曖昧にされているのだそうで、いくつかの方法が紹介されているそうで。そのせいか、のちのマジシャンたちはこの分にも色々と趣向を凝らすことになります。
最後に、サイ・エンドフィールドによる最後の3枚の巧妙な処分方法や、ダイ・バーノンによる10枚で実現する洗練された手順、ジェイコブ・デイリーによるクラブのAから10のカードをその順番で飛ばして見せる凝った手順などについて、簡単に触れられています。(2023.02.05)
トラベリングカード
プロがあかすカードマジック・マジック
p.193
アードネスによる解説です。この作品では、袖を通ったカードは内ポケットではなく、肩の位置まで移動します。上着をちょっとめくって、肩の上からカードを取り出すという動きが何度も繰り返されます。
まず、観客に1枚選んで覚えてもらい、デックに戻してもらいます。その後、左手に持ったデックを弾くと、1枚のカードが袖を通って肩から出てきます。2枚目、3枚目も弾くたびに肩から出てきますが、ここで「先ほど覚えたカードを何枚目から出しましょうか?」とマジシャンから問われ、観客が答えます。例えば「6枚目」と言ったとしましょう。すでに3枚移動していますので、4枚目・5枚目と同じように移動させ、いよいよ6枚目が肩から出てきたとき、そのカードがまさに観客のカードです。この後も複数枚同時に移動させたり、右肩からも取り出して見せたり、同じ現象を繰り返されます。最後の数枚は全て表を見せて覚えてもらった上で袖を通して肩から取り出して見せます。
何度もパームを繰り返す大胆さが求められますし、現代的な感覚では同じ現象の繰り返しが長すぎるきらいはあります。しかしそれだけで現実的でないと切り捨てるには惜しい作品です。クラシックな作品に見られる力強さが、この作品にも秘められています。(2023.02.12)
トラベリング・カード
カードマジック大事典
p.232
[The Expert at the Card Table] のアードネスの手順が解説されています。
手順自体は原著と同じですが、この本では宮中氏が演じている様子の写真が添えられているため、わかりやすい解説になっています。
アードネスは原著において「熟練したパームの技術」と「断固たる大胆さ」の2つが必要だと書いていますが、宮中氏も「この両者が身に付けば、あなたもまさしくエキスパートの仲間入りをしたことになるだろう」と言葉を添えています。(2023.02.19)
ポケットに通うカード
カードマジック大事典
p.234
[More Inner Secrets of Card Magic] に発表されたダイ・バーノンの手順が解説されています。原著では8枚の写真を添えて解説されている作品で、カードマジック大事典においても8枚の写真を添えられていますが、撮影されているポイントが違います。他の作品ではあまり見慣れない動きが散見されるため説明が難しく、どのシーンを写真に残すべきか、ルイス・ギャンソンも宮中氏もかなり悩まれたのではないかと推察されます。(両方の写真を合わせて読むと非常にわかりやすいです)
例のごとく、バーノンによって洗練された作品になったと言っても過言ではないと思います。10枚のカードに絞ったことや、演技の途中で残りの枚数を確認することにより、観客にとってわかりやすく、かつ説得力のある作品に仕上がっています。
最後の一枚の移動の見せ方については写真がありません。文章の通りに解釈すると原案とはちょっと手の動きが違うような気がします。[More Inner Secrets of Card Magic] にはこのシーンの写真が掲載されていますので、気になる方は原著をご確認ください。なお、[More Inner Secrets of Card Magic] では観客視点の写真が多く、[カードマジック大事典] ではマジシャン視点の写真が多い印象です。(2023.02.26)
CARDS UP THE SLEEVE
STARS OF MAGIC (日本語版)
p.121
ドクター・ジェイコブ・デイリーの、こだわりが詰まった作品です。クラブのAから10までの10枚のパケットを使って、数字の順番通りにカードを移動させるという離れ業を完成させました。1枚のカードという物体が移動したという現象ではなく、もっと具体的にクラブのAが移動するという現象にすることで、実際に移動したことが強く伝わります。10枚移動する中でどれか1枚でもそのように移動させれば充分効果的だとは思いますが、10枚すべてでそれを実現してしまうこだわりようが、一定数のマジシャンの心を強く揺さぶるのではないでしょうか。
観客にデックを借りて「同じマークのAから10までの10枚を抜き出してください」と言い、受け取った10枚以外は使わないというクリーンさにも驚きです。
惜しいのは、この日本語版の説明には2つの大きな不備があることです。冒頭に「2枚ランして...3枚ランして...するとこういう並びになります。」という説明がありますが、残念ながらこの手順ではそういう並びになりません。2枚ラン、1枚ラン、3枚ランと続けると解説通りになります。また、最後のページでは、ページの上部にあるべき5行の解説文が、一段落丸ごと最下部に移動してしまっており、上から読むと理解不能です。(2023.03.11)