garamanのマジック研究室

Everywhere And Nowhere

あなたが自由に選んだ1枚のカード。デックに戻して混ぜられた後、マジシャンは簡単な方法で当てようとしますが、うまくいきません。2度目もうまくいかず、3度目も失敗。。。テーブル上には3枚のハズレカードが置かれています。3度のカード当てに失敗したように見せかけて、実はここからがマジックの始まりです。

3枚のハズレカードの中から、あなたが1枚を自由に選ぶと、そのカードはなんとあなたが最初に選んだカードに変わっています。それどころか他の2枚のハズレカードを順番に確認すると、その2枚まであなたが選んがカードに変わっています。3回の失敗どころか3回とも成功だったのです。

となると3枚とも同じカードという事になりますが、3枚同時に確認するとあなたの選んだカードは1枚しかありません。

どこにもあってどこにもないカード(1)

カードマジック事典
p.166

ヨハン・ネポマク・ホフジンサーの作品を大幅に簡略化した手順です。クロースアップでもできますが、ここで解説されている手順では観客との距離が少し離れている前提になっています。当時サロンマジックとして演じられていたのでしょうか?時代を感じさせます。同じカードを数枚使用します。解説は非常にシンプル。1ページ半でイラストもありません。

手順自体の難しさはあまりないものの、この作品を上手に演じるにはいくつかの壁があります。まず、サッカー・トリックですので一度は失敗したように見せるわけですが、それが3回も続くわけですから、見ている側の心理としては素直に楽しめる状況ではありません。終わった後に「心配して損した」というような印象を与えないように工夫が必要です。もう1つ。シンプルな現象に3回も失敗する事によって生じる時間が問題です。この時間が非常に長いのです。特に先の心理状態になっている観客から見ると、実際の時間の何倍にも感じるでしょう。

この心理状態で長時間を耐えている観客に対して、クライマックスまで興味を惹きつけておくには、並々ならないパーソナリティーを必要とするでしょう。厄介な事に、手順自体がさほど難しくない上にクライマックスでは大きな反応が得られる事から、演じた側としては全体的にうまくいったと錯覚してしまいがちな作品です。手順が正しく実行できている事は自覚できても、作品として本当にうまく演じられているかどうかは観客に感想を聞いてみなければわからないでしょう。この作品を演じた後に人気が上がったマジシャンは、プロ・アマ問わずきっと素敵なパーソナリティーの持ち主です。(2008.02.10)

エブリホエア・アンド・ノーホエア

ロベルト・ジョビーのカード・カレッジ4
p.40

ジョビーの作品です。こちらも同じカードが数枚必要です。

3回続けてカード当てに失敗してしまうというテーマそのものは原案と同じですが、演出が異なります。デックから一枚を選んでもらい、覚えたら元に戻してもらいます。「デックをちょっと振ると一番上に移動します」と言ってトップカードをめくりますが、当たりません。気を取り直して「一番下に行ってしまう事もあります」と言ってボトムカードを見てみると、ここにも選ばれたカードはありません。「どうやら、一番上に来て、様子を見てから真ん中辺りに戻ったようです。。。」などと自信なさげな事を言って、中央あたりから1枚のカードを抜き出しますが、これもやっぱりハズレです。

テーブル上に3枚のハズレカードが裏向きに置かれている状態になりました。3枚のハズレカードのうち1枚を選んでもらい、塩を振ってから表向きにすると、はじめに選ばれたカードに変わっています(この塩が重要なアイテムになっています)。他の2枚のハズレカードについても同じように塩を振ると選ばれたカードに変わってしまいます。途中塩をかけすぎてしまったというアクシデントを交えますが、その影響で手元に残ったデック全体が、全て選ばれたカードに変わってしまうという現象も加えられています。

これで充分インパクトの強い作品と言えますが、まだ [Everywhere] 現象までしか起きていません。最後のオチはやはり [Nowhere] 現象です。マジシャンはおもむろに「これはただの幻想なんです」と、いままでの不思議な現象を覆す発言をします。そうです。テーブル上のカードも、手元のデックも全て表向きに返しますが、どこにも選ばれたカードはありません。「実際、そんなカードは存在しなかったのです」とマジシャンは、ポケットから1枚のカードを取り出します。演技の前から予め除けてあったという1枚のカード、それが観客が始めに選んだカードなのです。

次々に起こる不思議な現象が徐々にインパクトの強いものになっていくという構成で、印象に残る強烈な作品に仕上がっています。

3ページ半に及ぶ解説はとても分かりやすい平易な文章です。ただし、途中で平易にするために第1巻から第3巻までの文章を参照するように注釈を入れている箇所が多いので、全くの初心者が、この本だけで習得することは難しいと思います。(2009.01.03)

EVERYWHERE AND NOWHERE

ビジョンズ・オブ・ワンダー 第3巻 日本語字幕版
Chapter6

トミー・ワンダーの作品です。こちらも1枚のギャフカードを使用します。

相手のカードがなかなか当てられず、3枚のハズレカードがテーブルに並びますが、外れた筈のカードが1枚ずつ観客の選んだカードに変わっていきます。そればかりか、手元に残った49枚のカードをどこでカットしても観客が選んだカードになっています。全てのカードが観客のカードに変わってしまったと思った次の瞬間、テーブルのカードが元のハズレカードに戻り、他のカードも元通りに戻ります。つまり、観客のカードが1枚もない状態になっています。観客のカードは、はじめからそこにあったかのように、上着の内ポケットから現れます。

DVDで実演と解説が見られます。ギャフカードを極力隠して使うのではなく、大胆に活用したクレバーな作品です。観客の前での実演は、手順を追うのではなく観客の反応を追ってください。その方が、この作品の素晴らしさが分かります。(2013.02.23)

ワイルド・ワイフ

ゆうきとものクロースアップ・マジック
p.112

ゆうきとも氏のちょっと滑稽な印象の作品です(演者にゆとりがないと、この滑稽さは出せませんが)。観客に選ばれたカードを当てるのに、3枚のカードを使うという手順で、3枚のカードの1枚目は選ばれたカードの色を表し、2枚目はマークを、3枚目は数字を表すと言って、相手のカードを絞り込んでいく演出です。一見するとDunbury Delusion のようですが、 れはマジシャン目線だからかもしれません。解説を書いているカズ・カタヤマ氏は、Everywhere And Nowhere の改案として紹介しています。なぜなら、ヒントにするカードが3枚とも選ばれたカードそのものだからです。

相手が選んだカードがスペードの6だとすると、ヒントカードの1枚目にスペードの6が出てきて、「あなたのカードは黒ですね」と言い、2枚目にもスペードの6が出てくるのですが気づいていないかのように「あなたのカードはスペードのようです」と言います。最後に3枚目のカードもスペードの6なのですが、「あなたのカードは6ではありませんか?」と絞り込んでいく(!?)様は、場の空気さえ支配していれば、笑いに包まれる事でしょう。(2013.03.03)

ジョーカーの催眠術

ホァン・タマリッツ カードマジック
p.215

ホァン・タマリッツの作品です。1964年にある技法に出会ってから、1977年にヴァーノンの賞賛を受けるまで、13年の時をかけて育て上げた作品です。完成までの経緯を5ページにわたって説明している事からも、この作品にかけた情熱が伝わってきます。完成した作品は、ジョーカーによる催眠術の効果を中心に据えています。

まずは観客に適当に1枚のカードを思い浮かべて決めてもらいます。その観客が、1組のデックの3箇所からバラバラにカードを選びます。その3枚の中に思い浮かべたカードが入っていたら、それだけで充分奇跡ですが、なんと3枚とも観客が思い浮かべたカードです。そう、催眠術の影響で確かにそう見えるのです。ジョーカーの催眠術が解けると、その3枚はどれも違うカードに戻ります。それどころか、観客が思い浮かべたカードは、デックのどこにも存在しません。マジシャンのポケットの中からそのカードが出てきます。

30枚以上のイラストを添えた、15ページもの詳細な解説です。(完成までの経緯についての5ページは除いてです!)(2013.10.27)

エブリウェア・アンド・ノーウェア

遊びの冒険 全5巻
「1 トランプ・マジック・スペシャル」 p.147

ホフジンサーの原案の手順がほぼそのまま収録されています。一箇所、原案では複雑すぎる解説になっている部分については簡略化した手順を紹介していますが、それ以外は原案のままのようです。同じカードが数枚必要です。高度な技術も必要です。それも7回連続で。多くのマジシャンに演じられるのは、現象の魅力が何よりの要因でしょうが、改案が多いのは、この技術的な難しさが要因と言えそうです。また、ノーマルデック一組だけで演じるための改案も多く発表されているようですが、松田道弘氏は、「私がこれまでに知り得た手順は、どれもせこせことしてひ弱で、原案のあやしくもたくましい表現力には遠く及びません。」と、誉めそやし、原案の魅力を伝えています。

イラストはありませんが、9ページにわたる詳細な解説です。(2013.12.08)

EVERYWHERE AND NOWHERE

Encyclopedia of Card Tricks
p.316

「このトリックが難しいと感じさせるのは、今までの本の解説が不必要に複雑だからである」として、極力簡素化した手順を紹介するという趣旨の一文が添えられてはいますが、さほど簡略化されている印象は受けませんでした。ポール・ロッシーニの手順のようです。原案の手順が長い作品だけに、簡素化する試みは多いようですが、この本では全体的な長さは変わっておらず、演技を見た人の視点からでは、その差は殆ど感じられないと思います。使う技法も比較的高度なものが何度も使われます。解説自体はシンプルで、要点を的確に捉えているため、長い手順ながら4ページほどで解説されています。

3枚のハズレカードをテーブルに置くだけではなく、3つのグラスに1枚ずつ入れておくとか、分厚い本を立てて、上に差し込むといったちょっとお洒落なディスプレーの仕方も紹介されています。クロースアップだけでなく、パーラーマジックとしても立派に通用する作品である事が分かります。(2013.12.15)

EVERYWHERE AND NOWHERE

THE ROYAL ROAD TO CARD MAGIC
p.260

ヒューガードの改案でしょうか。長い手順の後半をバッサリとカットして、シンプルな現象にまとめています。また、難易度の高い技法を何度も繰り返す原案から、技法を減らしたり比較的簡単な技法に置き換えたりして、簡略化しています。同じカードを数枚使用する事は原案と同じですが、途中でそれらのカードがどこにあるのかを把握しておくのも簡単になっています。それでいて見た目のインパクトを大きく損なっていないという、簡略化の見本のような解決案です。

イラストの無い4ページほどの解説ですが、台詞回しが豊富なせいか、イメージしながら読み進められるため、比較的理解しやすい印象です。セリフ回しは少々古臭いですが、自分なりの言葉に置き換えれば、今でも斬新なマジックに映るはずです。(2013.12.23)