garamanのマジック研究室

Flying Queen

マジシャンは数枚の黒のスポットカードとともに1枚だけ赤いクイーンを持っています。赤いクイーンをテーブルに伏せておくのですが、いつの間にかそのカードは黒のスポットカードに変わっていて、消えた赤いクイーンは手に持った他の黒いスポットカードたちのところに戻っています。何度赤いクイーンをテーブルに置いても、すぐに手元のパケットに戻ってきてしまうという現象です。

これは色々と謎の多い作品です。日本では「天海のフライングクイーン」と呼んでいますが、石田天海氏自身が次々と手順を変えており、改案を続けたというよりアドリブを楽しんでいたのではないかと思うほどで、これといった手順が定まらないのです。そのため、どの手順のことを指しているのかが人によって違うようなことが起こってしまいます。そのうえ、最初に発表したときは「カード・フライト(Card Flight)」という名前でしたし、そのアイディアの元になったのは、フレデリック・ブローの「ホーミング・カード(Homing Card)」という作品のようで、天海氏の手順もまとめてホーミング・カードというジャンルとして表現することもあります。さらにエドワード・マーローは、カード・フライトをもとに「カムバック・カード(Come Back Card)」という作品を発表しているため、この名前で呼ばれることもあります。


フライング・クイーン

あそびの冒険 全5巻
「4 ミラクル・トランプ・マジック」p.187

松田道弘氏による解説です。松田氏は石田天海氏の演技をリアルタイムで見ており、その時の名人芸への感嘆を綴られていますが、やはりどの手順を解説するべきかは迷われたようです。結局、原案になるべく近い手順を基にしつつ、松田氏による変更点も加えられた作品が解説されています。松田氏による変更点はカッコ書きで解説されていますので、その差分から元の手順を再現することも可能です。ただし、この「原案になるべく近い」という表現もまたややこしく、原案の手順を「カード・フライト(Card Flight)」だとすると、それに近い石田天海氏の別の手順を基にしつつ、松田氏のアレンジが加わっていることになります。つまり、カッコ書きから松田氏の手順を差し引いても、カード・フライトにはなりませんのでご注意を。

天海氏の手順に特徴的な、テンカイ・スプレッドやテンカイ・パームは使われていません。(2025.04.26)