Henry Christ's Four Aces
4枚のエースをデックの中に1枚ずつバラバラな位置に入れていきます。そのエースが1枚ずつ異なる方法で出てきます。しかも、最後の1枚は、観客がストップをかけたところから出現するという不可能性の高い作品です。
ヘンリー・クライストの作品として紹介された時、当初の原題は「Fabulous Ace Routine」というような名前だったようです。彼の死後に発表され、徐々に知名度が高まる中で「Henry Christ's」と原案者の名前が冠せられていったのでしょう。日本では「クライストの4エース・ルーティーン」などと呼ばれています。ヘンリー・クライストは、ダイ・ヴァーノンの「Cutting The Aces」に触発されて、この作品を考え出したようです。
クライストの4A
カードマジック大事典
p.392
Karl Fulves "Epilogue" No.20 に掲載された、もっとも原案に近いと言われている手順が解説されています。事典という性質上、細かな部分に言及せず、手順だけが淡々と解説されているため、ちょっと物足りないというか、現象の強烈さが伝わりにくいのが玉に瑕ですが、紛れもなく良作です。全体的にスピーディーに演じても、観客が置いていかれることのない、わかりやすい現象が続きます。
写真が1枚のみで、2ページの簡潔な説明ですが、必要充分です。(2019.01.27)
ヘンリー・クライストの4枚のエース
〜Henry Christ's Fabulous Ace Routine Plus〜
舶来 カード奇術 あ・ら・カルト
p.129
荒木一郎氏の改案です。原案のプロットを大切にしながらも、技術的な難易度が下がるとか、優れたプレゼンテーションになっているとか、すくなからず改良されるように気を使っていると宣言した上で、この改案が解説されています。よっぽどの自信があっての発表です。確かに、技術的な難易度は、この本で紹介されている作品の中でも一番易しいものに仕上がっています。また、手順の前に観客にデックを渡して好きなだけシャッフルさせてから演じることができるように工夫されているので、より不可能性が高く改良されています。
原案の魅力を損なわないどころか、表現したい現象をより強く印象付けるように構成されており、改案の見本とも言えます。(2019.02.02)
ヘンリー・クライストのフォア・エースの改案
〜Henry Christ's Four Ace〜
松田道弘のマニアック・カードマジック
p.119
松田道弘氏の改案です。4通りの方法で4枚のエースを1枚ずつ取り出すのがこの作品のプロットですが、そのうちのひとつにスペリング・カウントがあります。例えば、クラブのエースを取り出すために、[A・C・E・O・F・C・L・U・B・S] と、スペルを1文字ずつ読み上げながらディールしていく演出のことで、ちょうど読み終わったタイミングでクラブのエースが現れます。英語では Spell という単語自体に「おまじない」や「呪文」という意味があるため、アルファベットの綴りを1文字ずつ唱えることで該当のカードが現れるという現象が、ある種不気味な印象を与えます。しかし、この演出を日本でそのまま演じても、狙った効果は得られないでしょう。松田氏は思い切ってこの部分を別な方法に置き換えています。日本向けの改案と言ってもよいでしょう。また、全体的に少しスピードアップされているのも特徴です。
ヘンリー・クライストについての紹介やフォア・エースの発表にまつわる経緯などの解説が1ページ半ほど収録されており、その後、松田氏の改案が15枚ものイラストを添えて9ページ半ほどのボリュームで詳細に解説されています。途中にかなり難易度が高く思える技法が出てきますが、その部分の別法まで添えてくださる親切設計です。さらに、ヘンリー・クライスのオリジナル手順の概略を簡潔にまとめてあったり、バーノンのSLAP TRICKの概略を添えてあったりと、至れり尽くせりの内容です。(2019.02.10)
ヘンリー・クライストのフォア・エースを考える
カードマジック THE WAY OF THINKING
p.157
松田道弘氏が、ロベルト・ジョビーの改案に魅せられてさらなる改案を試みた作品です。すでに自身が発表された「松田道弘のマニアック・カードマジック」での改案ではスペリング・トリックを排除しましたが、「カードマジック THE WAY OF THINKING」では復活しています。しかし、今回の改案ポイントはそこではなく、最後の1枚のカードの見つけ方をよりスマートにしたところにあるようです。
結果的に全くのレギュラーではできず、事前にわずかながら準備が必要になりました。改案のポイントをどこに置くかによって、同じ人でも大きく違う作品になるものです。(2019.02.17)
Study for Four Aces
ロベルト・ジョビーのカード・カレッジ5
p.141
ロベルト・ジョビーが20年ほど演じ続ける中で、少しずつ形を変え、洗練されていった作品です。その結果、必要なテクニックのほとんどが自然な動作の中にうまく溶け込んでおり、最後まであやしさを感じさせない作品に仕上がっています。ちょっとした工夫、その積み重ねがこの作品を洗練されたものに仕上げています。観客から見たプロットは原案のままですので、アプローチの違いを比較してみるのも勉強になります。また、テーブルを舞台に見立てて6分割し、美しく理解しやすいようにカードを配置を配置したり、スポットライトを当てるかのように観客の視点を誘導していく様は、ジョビーならではの研究成果と言えるでしょう。
11ページにも及ぶ解説はもちろん、そのあとの2ページのファイナル・ノートでは、より深い演出論が語られます。(2019.02.24)