Travelers
一組のデックから4枚のAを取り出し、デックの中にバラバラに差し込み、よくシャッフルします。しかし、その4枚のAはデックから消え、マジシャンのいろいろなポケットから1枚ずつ出てきます。
ダイ・バーノンの名作のひとつです。
The Travelers
STARS OF MAGIC (日本語版)
P.116
Stars of Magic に発表された、ダイ・バーノンの原案です。ミスディレクションの連発で実現する現象ですので、その練習にも役立つ作品です。手順はシンプルですし、さほど難しい技法も使いませんので、その分ミスディレクションを効かせることに意識が集中できます。この作品の演技を見れば、ミスディレクションというものを理解できているかどうかがわかるという、試金石的な作品と言えるでしょう。ミスディレクションを効かせることに自信がない人ほど、スピードでごまかそうとしてしまう傾向があるような気がします。
この本は、ちょっと文章が理解しにくいところがありますが、10枚のイラストで補いつつ、実際に手を動かしながら読み進めていくと、理解しやすいかと思います。(2016.01.31)
ポケットへ通うカード (3) Travellers
カードマジック事典
p.290
バーノンの原案の手順が2ページで簡潔にまとめられています。11項目の箇条書きと1枚のイラストしかないにも関わらず、STARS OF MAGIC (日本語版) よりわかりやすいのは、さすがです。ただし、手順を理解するための解説であり、途中に行われる一つ一つの動作にどんな理由付けをするのか、観客にどう感じさせるための動作なのか、といったところは読者のセンスで読み解く必要があります。それでも、一度でも上手い人の演技を見た事があれば、この解説は充分どころか示唆に富んだものになります。
読み返すたびに発見のある名解説です。(2016.02.07)
駆け足の旅行者たち
デビッド・ウィリアムソン ウィリアムソンズ・ワンダー
p.97
デビッド・ウィリアムソンの改案です。原案に比べてちょっとカジュアルになっています。極力クリーンに見せようと思う人にとっては、この改案は受け入れられないかもしれません。しかし、原案のプロットを踏襲しながら、必要な技法のレベルを落としているので、演じる側の心理的負担は少なくなり、その分、観客とのやりとりに集中できるのは充分なプラス材料と言えるでしょう。また、マジシャンから見て不自然に思える形も、観客から見るとさほど不自然ではなかったりするものですが、その感覚をうまく利用した作品でもあります。「通用するのか?」と疑問に思いつつも、実際に演じてみると観客の反応が予想を超えます。
4ページで6枚のイラストを添えた解説です。手順を理解するには充分な内容ですが、体の動きや視線の動きは、じっくり考えて練習することをお勧めします。(2016.02.13)
トラベラーズ・1
クリス・ケナー エキセントリック・マジック
p.47
クリス・ケナーの改案です。ノーマル・デックに簡単な細工を施して、クリーンに見える現象を作り上げました。細工がある分、カードの扱いは慎重にならざるを得ませんし、一部技術的に難しさを伴う面もありますが、観客の視点では非常にクリーンに見えます。色々な作品が改案という名の下に改悪されていると嘆く人も多いですが、それは「自分の手に合うようにやりやすく手順を変更した結果、見た目の現象がやや不自然になる」というようなことに鈍感になっている事への警告と言えるでしょう。それに対してこの改案は、観客が目にする現象の方が改善されています。移動現象を論理的に知覚してもらうのではなく、ビジュアルに認知してもらえるような作品になっています。
ユーモアを交えた文章が若干わかりにくいですが、15枚のイラストの効果もあって理解に苦しむことはないでしょう。(2019.09.08)
トラベラーズ
カードマジック大事典
p.223
「STARS OF MAGIC (日本語版)」に掲載されているダイ・バーノンの手順が、豊富な写真を交えて、よりわかりやすく解説されています。ほとんどの写真がマジシャン側からの視点で撮影されているため、手順を追うにはとてもわかりやすいですが、逆に、観客にどう見えるのかを意識するには想像力が必要です。観客に与える印象はとても大きな作品ですので、ひとつひとつの動きが、観客にどう見えているのか(どう見えて欲しいのか)を意識しながら読むことをお勧めします。
手順を最後まで通しても、途中で手に余計な力が入らないくらいまで身についたら、ぜひ実際の観客相手にゆっくりと落ち着いて演じてみてください。この作品をきっかけに「ミスディレクション」を使いこなせるようになった人もきっと多いはずです。(2019.09.23)
トラベラーズ
Light
p.37
アマチュア・マジシャン、Koudaiさんによる改案です。4枚のAが色々なところから1枚ずつ現れ、4枚揃ったところで終わるのかと思いきや、その4枚はいつの間にか4枚のKに変わっているというオチ。。。と思ったらまだ終わっておらず、またもや色々なところからAが1枚ずつ現れます。最後の畳み掛けるような展開は、原案を知っている人でも思わず声を出して反応してしまうほどのインパクトです。もちろん、一般の観客相手にも強烈な印象を与えるでしょう。
ある動作が、次の現象を起こすためのミスディレクションとして自然に働く、そんな場面が何度も訪れます。演じる側も楽しめる作品です。(2019.10.06)