garamanのマジック研究室

Twisting The Aces

たった4枚のAだけを使って起こす奇跡です。

現象はとてもシンプルで、マジシャンが裏向きに持った4枚のAが、1枚ずつ順番に表向きにひっくり返っていきます。


私案ツイスティング・ジ・エーセス

現代カードマジックのアイディア
p.20

タイトル通り、松田道弘氏によるツイスティング・ジ・エーセスの改案です。ダイ・バーノンによって開発されたこの作品の歴史的背景を、1ページ余りのボリュームでまとめた後、自身の改案を4ページほどに渡って解説しています。その手順の中で使用される2種類のカウント技法は、その後に3ページ程を使って解説してあるという親切設計です。

この作品のポリシーとして、動作の一貫性を重視しています。1枚ずつ裏返っていく度に手つきが違ってしまっては、現象以外のところに観客の注意がそれてしまうのではないかという危惧からでしょう。2種類のカウントを使うと書きましたが、そのテクニックも見た目には違いがありませんので、終始同じ手つきで演技する事ができます。また、原案ではクライマックスが弱いと感じている事から、この改案では最後に4枚のAが全て一瞬で裏返るという現象で結んでいます。個人的には「1枚ずつ裏返る」という全体のテーマに変化をつける必要は無いと感じますが、この辺りの印象は人それぞれでしょう。演技中に4回続けて同じ現象が起きることについて「その度に驚きが増幅していく」という演技ができれば、クライマックスは要らないでしょうし、「4回も繰り返すとさすがに飽きる」という雰囲気で演じているのであれば、クライマックスが必要になるでしょう。演じ方次第だと思います。

一番最後に、4ページを消費してマイケル・スキナーの手順をまとめてありますが、こちらは細部に拘りすぎた良くない例として掲載しているようです。作品のどういったポイントに着目するかによって印象は大きく変わると思いますが、演じる人の個性に合っているのであれば、この作品も決して悪くないと私は思います。(2008.08.17)

ツイスト第1番
〜 BROTHER HAMMAN'S FIRST TWIST 〜

ブラザー・ジョン・ハーマン カードマジック
p.46

1963年頃から演じられていた、ブラザー・ジョン・ハーマンの改案です。この作品では、4枚のAではなく同じマークのAから4までの4枚のカードでツイスト現象を起こしています。観客の視点から見ると、原案のように同じ数字のカードがツイストするより、この改案のようにAから順番にツイストする方が、現象が分かりやすいかもしれません。

スペードのAから順に1枚ずつツイストしていきますが、最後にツイストしたスペードの4がハートの4に変化するというおまけつきです。9枚のイラストに5ページに渡る解説です。作品中のちょっと変わったディスプレーも観客にとって見やすく、良いアクセントになっています。

ちなみに、作品中では「一番軽いカードがいつも一番最初にひっくり返る」と説明して、インクの量が少ない順にひっくり返していくという演出になっています。ここでちょっと注意が必要なのは、この演出でいくならスペードは使わない方が良いということです。スペードのエースだけは(トランプ税の名残で)マークが大きく複雑に印刷されていますので。(2008.08.31)

ツイスト第2番〜 BROTHER HAMMAN'S SECOND TWIST 〜

ブラザー・ジョン・ハーマン カードマジック
p.51

[ツイスト第1番] を発展させて、余分なカードを使わずに同じ現象を起こす手順に仕上がっています。同じ現象ですので、最後にハートの4に変化するというおまけも踏襲されています。使用する技法は若干増えます。難しい技法ではありませんが、よほど手馴れた手つきで行なわないと不自然さを感じさせてしまうと思います。この改案のもっとも大きな成果は「演技の最後にパケットを手渡す事ができる」という点でしょう。(もっとも、ダイ・バーノンの原案では手渡せるのですが)

イラスト7枚、4ページでの解説です。パケットトリックには欠かせないカウント技法ももちろんですが、冒頭で使用される「アンダー・カウント」もクリーンでユースフルです。ちょっと大胆さを試されるような技法ではありますが、人前で使いこなせれば演技に自信がつくでしょう。

この作品中でもやっぱりインクの量について触れています。スペードで演じるのを避けるか、演出(台詞)を変えた方が良いかと思います。(2008.09.07)

ひっくり返るA(1)

カードマジック事典
p.329

ダイ・バーノンの原案の手順を高木重朗氏が簡潔にまとめています。4枚のAだけを使って、公明正大に1枚ずつ裏返っていきます。原案の手順はとてもスッキリとしていて無駄がありません。無駄がないせいか、どうもフラリッシュ的にチャチャッと演じられてしまう事が多いような気がするのが、ちょっと残念なところです。この作品には多くの改案が出回っていますが、改案の改案の改案が、結局原案を下回るような事もあります。一度しっかりと味わっておきたい作品です。

イラストは3枚しかなく解説も1ページしかありませんので、自分のイマジネーションで補足する必要があります。とは言え必要なヒントは全て含まれています。読み直すたびに発見がある名解説とも言えるでしょう。

解説文は全て箇条書きで1〜10番まで番号が振られています。文中に二箇所「(3)と同様にして、、、」という文が出てきますが、どうやら「(4)と同様にして、、、」の間違いのようです。なお、私の手元にある本は1995年に発行された第11版です。(2008.09.14)

ツイスティング・エース・プラス
〜 Twisting Ace Plus 〜

テクニカルなカードマジック講座2
p.137

荒木一郎氏によるテクニカルな改案です。原案同様4枚のAを使った作品ですが、最後にひっくり返るスペードのAが、いつの間にか裏模様が変わっているというおまけつきです。言わばこの最後のおまけのためにテクニカルな手順になってしまっったという感じです。もちろん「テクニックを駆使すればこんなおまけも付けられる」と言い換える事もできますが、手順の複雑さとその効果を天秤にかけると、どうしても素直に受け入れにくい気がしました。原案の方がスッキリしていて優れているような印象を受けてしまいます。

現象の分かりやすさ、見た目のシンプルさは原案の方が優れているのは確かです。ただ、(アマチュア・マジシャンも含めて)目の肥えた人を相手にするなら絶大な効果を生むでしょう。原案を知っている人なら最後のおまけに少なからず驚くはずです。最後のおまけのために [Twisting the Aces] 自体を前フリに使ってしまうのですから。その上、演技が終わった後には4枚のカードを手にとって確認する事もできるのです。これも1つの完成形です。

テクニカルな作品は手順の解説がわかりにくいものですが、この本の解説ではイラストに間違いがあるので余計に分かりにくくなっています。私の手元にある2006年の初版でしか確認はしていませんが、[図3] [図4] [図5] [図8] で描かれているハートのAはダイヤのAであるべきです。文章の方を信じて読み進めてください。ちなみに [図10] 以降に描かれているダイヤのAは間違っていません。また、この作品は付属のDVDには収録されていません。(2008.09.21)

エコロジカル
〜 Twisted Location 〜

パケット・トリック
p.31

マックス・メイビンの作品です。カード当てマジックの伏線として [Twisting the Aces] を利用するという大胆な発想です。

カード当てを始めるべく、観客に1枚のカードを選んでもらいデックの中に混ぜます。「選ばれたカードを当てるために4人のキングに手伝いを頼んである」というのですが、どうやら交換条件があるようで、4人のキングは自分達のマジックをやらせろ、と言ってきかないとの事。4人のマジックに付き合えば、選ばれたカードを当ててみせるという何ともおかしな展開です。

テクニカルな作品は手順の解説がわかりにくいものですが、この本の解説ではイラストに間違いがあるので余計に分かりにくくなっています。私の手元にある2006年の初版でしか確認はしていませんが、[図3] [図4] [図5] [図8] で描かれているハートのAはダイヤのAであるべきです。文章の方を信じて読み進めてください。ちなみに [図10] 以降に描かれているダイヤのAは間違っていません。また、この作品は付属のDVDには収録されていません。(2008.09.21)この4人のマジックとして取り上げられているのが [Twisting the Aces] 現象です。(この場合は [Twisting the Kings] ですが)ストーリーの展開上、ここはAよりはKの方が妥当です。最後にカード当てをするのが目的というスタンスですが、[Twisting the Aces] を知らない人が見ると、その伏線の方がインパクトが強く、最後のカード当ては蛇足的な印象を受けるような危惧はあります。全体を通してコミカルに演じる事で作品全体の調和が取れる人が演じれば、面白い作品でしょう。4人のキングたちとマジシャンのコミカルなやり取りを表現するように演じるのが肝心です。テクニカルな印象を前面に出して演じてしまうと、前半と後半がバラバラな感じになってしまうと思いますので、要注意です。

始めにちょっと特殊なカウント技法が出てきますが、[Twisting the Aces] に入ってから最後のエンディングまでは特に難しいテクニックは使いません。解説も4ページで簡単にまとめてありますが、それでも充分なほどシンプルな手順です。手順の難易度の割には、現象のインパクトが大きい作品です。(2008.10.05)

ワイルデスト・ツイスト

松田道弘のオリジナル・カードマジック
p.32

松田道弘氏の作品です。バーノンの原案にあるシンプルさには遠く及びませんが、それを理由にこの作品の価値が無いと断じるのは適切ではありません。

特徴は3つあります。1つには「ツイスト現象にカードの変化現象を加えた」点が挙げられます。4枚のジョーカーが1枚ずつ裏返る、という現象を起こした後、4枚のカードを表向きにすると全てスペードの5に変わっています。これを4枚のカードだけで実現しようと試みています。次に「数種類のカウントを取り込んでいる」点も注目です。カウントの度に違う手つきになるのは大きな欠点になりますが、カウントの練習としては面白い作品です。最後のポイントは「演技終了時点で元の状態に戻っている事」です。つまり続けて同じ作品を演じる事ができるのです。テーブルホッピングや練習用には向いているでしょう。

この3つのポイントを踏まえると、一般の客に向けた作品ではなくマジシャンの為の試験的作品として見るのが筋でしょう。

解説は3ページで簡潔です。(2008.10.11)

'65ツイスト
〜 '65 Twist 〜

ラリー・ジェニングス カードマジック
p.284

ラリー・ジェニングスの作品です。見た目の印象はバーノンの原案とほぼ変わりません。原案のどこかを変えるというより、原案と同じ現象をジェニングス風に解決した、という印象です。非常に直線的な解決方法ですが、使う技法は原案よりも難しくなっています。

1枚ずつ裏返っていく過程をカウントにより確認しますが、いつも同じ動きになるように気を配っています。現象だけでなく、こういったポリシーも原案を踏襲しています。使われる技法に違いは見られますが、決して原案を壊すことはなく「もう1つの原案」といっても良い程の完成度の高さです。

同様の現象を達成するために2人の天才がどういったアプローチをするのか、バーノンの原案とジェニングスの作品を見比べてみるのも一興です。

3ページほどの解説に4枚のイラストが添えられていますが、この本一冊では手順を理解することもできないでしょう。基本的なカウント技法については特に説明もなく使われていますので、事前にある程度の知識が必要です。また、オープニングで4枚のAをあらためる手順の別バージョンが、2ページ程で解説されています。こちらもある程度の知識を必要とするところが難点ですが、ジェンニングスが晩年に好んで使っていた手順だそうです。(2011.09.24)

ワガドゥグー・ツイスト
〜 The Ouagadougou Twist 〜

ラリー・ジェニングス カードマジック
p.289

ラリー・ジェニングスの作品です。4枚のQが1枚ずつ裏返っていき、4枚とも裏向きになった次の瞬間、表向きにすると4枚ともKに変わっています。さらに、4枚とも裏向きにしてすぐに表向きにするだけで4枚ともAに変わるという贅沢な現象です。

とてもインパクトのある作品ですが、始めてこの現象を見る人には向かないのではないかと思います。おそらく「すごい。速い!」「いつ、すり替えたの?」といった類の反応しか得られません。ただできるからやってみた、という印象を与えかねないのでご注意ください。逆にマジシャン相手に演じるのに丁度良い感じの作品だと思います。もしくは、他の Twisting The Aces を見た事のある、目の肥えた観客を驚かすには効果的でしょう。言い方を変えると、アマチュアマジシャンが食いつきそうな作品です。とくに演出を変えずに演じるのであれば、仲間内で見せるにとどめておく事をお勧めします。

使用される技法は、さほど難しくありませんし、とても効果的な使い方です。実際に演じることも大切ですが、技法の使い方の好例として勉強のつもりで練習してみると、創作意欲を掻き立ててくれること請け合いです。(2013.12.29)

We'll Twist

Stars of Magic Vol.4
演技 : Title1/Chapter2
解説 : Title1/Chapter3

デレック・ディングルの改案です。ダイヤの2〜5までの4枚を使って演じます。4枚を裏向きに保持しますが、カウントすると1枚だけ表向きになります。もう一度カウントすると、先ほどのカードは裏向きに戻っており、別の1枚だけが表向きになります。これを繰り返し、全てのカードが一度ずつ表向きになるのですが、最後の1枚が表向きになった直後、2つの出来事が続けて起こります。まず、ダイヤの2だけを表向きにして残りのパケットに重ねて、すぐにファンに開くと、全てのカードを表向きになっています。さらに全てのカードを裏向きにすると、今まで赤裏だったパケットが、全て青裏に変わっているのです。

ひとつの作品に色々な現象を詰め込みがちなデレック・ディングルの、彼らしい改案と言えます。この作品では、関連のない現象が次々に起こりますが、順番に起きるだけなので、作品全体が濁るような悪影響はありません。畳み掛けるような効果を狙いたければ、この作品はオススメです。(2018.09.09)

調教
〜 Packetrainer 〜

パケット・トリック
p.111

マックス・メイビンによる、ノーマルな4枚のカードだけを使ったツイスティング作品です。4枚のエースではなく、クラブのA〜4の4枚が使われます。「調教」というタイトルの通り、マジシャンの指示に従って特定のカードがひっくり返るという演出になっています。指を鳴らせばクラブのAだけがひっくり返り、バーノン・フィスト・フラリッシュをすると、クラブの2だけがひっくり返る、といったように、マジシャンの合図に合わせて現象が起きる様子を何度も繰り返し見せられます。

使うテクニックは、エルムズレイ・カウントとジョーダン・カウントくらいですので、中級レベルの方には簡単な部類でしょう。カウントの仕組みを体に染み込ませるにもちょうど良い作品と言えます。

また、4枚とも裏向きであることを確認したパケットを観客に渡して、観客自身が指を鳴らすと期待通りAだけが裏返るというオチになっており、パケットトリックには珍しく、観客参加型なのは特筆に値するところです。(2024.03.03)

ひねくれ者
〜 Exitwist 〜

パケット・トリック
p.113

マックス・メイビンによる改案です。4枚のAではなく、4枚のジョーカーで演じる構成になっています。ジョーカーを1枚ずつ表向きに変えていきますが、最後の4枚目のジョーカーだけは、表向きにすることができません。そこで、言うことを聞かないジョーカーは消してしまうというオチになっています。

エース4枚だと同じカードを2度見せてしまうようなカウントは使えませんが、ジョーカー4枚という構成にすることで使えるカウント技法が増えます。そのメリットを活かしてクリーンでありながら実演しやすい手順になっています。また、同じ理由で、自分に合うように手を入れやすい作品とも言えます。

パケットトリックは、手元に注目される中でテクニックを使用することになるため、心理的ハードルが高い傾向がありますが、使うカウント技法が1つしかないこともあり、見た目だけでなく手順自体もシンプルなため、練習に持ってこいの作品です。(2024.03.23)

頑固者
〜 Extraexitwist 〜

パケット・トリック
p.116

マックス・メイビンによる改案です。前述の「ひねくれ者」のバリエーションです。同じように4枚のジョーカーで Twist 現象を起こします。4枚目のジョーカーだけが裏返らず、その1枚だけを消し去ってしまうところまでは同じ流れです。その後、消し去ったジョーカーはポケットから現れ、再び4枚になったジョーカーを使って、今度は1枚ずつ裏模様の色が変わるという作品です。

イラストは1枚もなく、説明もほぼ2ページ程ですが、解説としては充分です。

難易度はさほど変わっていない印象です。オリジナルのカウント技法を使うところがありますが、実際に手を動かしてみると、錯覚の原理をうまく使った説得力のあるカウント技法であることがわかります。(2024.03.31)

赤面
〜 Extendedexitwist 〜

パケット・トリック
p.119

マックス・メイビンによる改案です。前述の「ひねくれ者」のさらなるバリエーションです。同じように4枚のジョーカーで Twist 現象を起こします。4枚目のジョーカーだけが裏返らないことと、最終的にその1枚を消し去ってしまうというオチは一緒ですが、その間にシャイな4枚目のジョーカーの顔が赤くなるという現象を挟みます。

最初に4枚の普通のジョーカーがあるように見せていますし、そのうちの裏返らなかった1枚だけが赤面してしまうというビジュアルな現象を挟み、その1枚だけが消えてしまうので、全体を通してインパクトが強い作品となっています。これが難しい技法もなく実現できるため、重宝する作品になるでしょう。

顔が赤いジョーカーを使うというアイディアは、ブラザー・ジョン・ハーマンの "Blushed" から拝借したとのこと。(2024.04.07)

Twisting Flush

The Magic Of Alex Elmsley 1
演技 : Title1/Chapter8
解説 : Title1/Chapter9

アレックス・エルムズレイの改案です。スペードのロイヤル・ストレート・フラッシュ5枚を使います。裏向きに持った5枚をカウントするとスペードの10が表向きになり、再びカウントするとスペードのJだけが表向きにあっています。さらにカウントを続けると、Q・Kと順番にその1枚だけが表向きになっていいきます。5回目のカウントでAが表向きになるのかと思いきや、持っていたパケットが4枚になっています。足りない1枚がポケットから取り出されると、それがスペードのAというオチです。

エバーチェンジ・カウントの特徴を最大限に生かしており、現象との親和性が非常に高いです。作品作りの見本的な存在です。(2024.06.02)