Kangaroo Coins
4枚のコインとグラスをひとつ使います。マジシャンは右手に4枚のコインを握り、左手にグラスを持ちます。左手に持った空のグラスをテーブルの下に構えて、4枚のコインを握った右手をテーブルに叩きつけると「チャリ〜ン」と音がします。テーブルを通り抜けて一枚のコインがグラスに飛び込んだようです。テーブルに叩き付けた右手を開くとそこにはコインが3枚しかありません。ゆっくりとテーブルの下からグラスを取り出すと、1枚のコインが入っています。確かに1枚のコインがテーブルを通り抜けたようです。
マジシャンはコインを持った右手を次々とテーブルに叩きつけますが、その度にコインはテーブルの下のグラスに飛び込んでいきます。最後には4枚すべてのコインがグラスの中に入ってしまいます。
アル・ベイカーの Coins Through The Table から派生したダイ・バーノンの作品ですが、独立した作品としてひとつの流れを持っています。
テーブルを貫通する現象はいくつかありますが、私のサイトでは以下のように分類しています。
Coins Through The Table | コイン・スルー・ザ・テーブル |
テーブル上のコインが1枚ずつ貫通する現象 | |
Han Pin Chien | ハン・ピン・チェン |
テーブル上のコインが複数枚同時に貫通する現象 | |
Kangaroo Coins | カンガルー・コイン |
コインがテーブルを貫通して、テーブル下のグラスに飛び込む現象 |
KANGAROO COINS (Dai Vernon)
STARS OF MAGIC (日本語版)
p.39
ダイ・バーノンが原案の名手順です。ある程度の技術とある種の大胆さが要求される手順ですが、観客から見たときには不自然な点が全くと言って良いほどありません。流れを知るだけでも感動を覚えるほど考え抜かれた手順です。
たった5ページで淡々と手順が解説されていますが、一つ一つの動作には「巧妙」という言葉では片付けられないほど自然なミスディレクションが隠されています。「カンガルー・コイン」というタイトルにふさわしい台詞も紹介されていますので、参考にすると良いでしょう。台詞の解説を読めば、なぜこのタイトルが付いているのかが理解できます。(2004.12.05)
私案 カンガルー・コイン
あそびの冒険 全5巻
「5 とっておきクロースアップ・マジック」p.206
不朽の名作カンガルー・コインについて、歴史的な経緯が詳しく解説されています。。実に12ページにも亘って松田道弘氏の手順が解説されています。ほとんどダイ・バーノンの手順と変わりありませんが、決定的に違う箇所があり、それによって原案よりもスピード感のある現代風な手順が構成されています。その改案部分については、原案の手順と対比させて解説されているので、この本だけで原案の手順も良く分かります。原案が自然で公明正大であることに重点を置いているのに対して、松田氏の改案ではスピーディーな流れを心がけて手順が組まれています。どちらも名手順です。 (2004.12.05)
Kangaroo Coins
The Doctor Is In! Vo.6
演技 : Title1/Chapter6
解説 : Title1/Chapter7
カンガルー・コインも、澤浩氏の手にかかるとストーリーに添えられた彩りが桁違いです。オリジナリティーが強すぎて、(私の都合でここに分類しますが)もはや別作品です。この作品には、3頭のカンガルーとお母さんカンガルーとお婆ちゃんカンガルーが出てきます。お婆ちゃんカンガルーは少し大きめな小銭入れ。お母さんカンガルーはワンダラーくらいの大きさの銀貨です。この銀貨はオーストラリアのコインで、片面にはエリザベス女王が描かれ、もう一面にはカンガルーが描かれています。それでお母さんカンガルーだというわけです。そして、3頭の子供たちは銅貨で表現しますが、このコインにもカンガルーが描かれています。その3頭の子供たちが、大好きなお母さんの元にジャンプして集まっていきます。かと思えば、お母さんと一緒に居たお婆ちゃんの家からも、自由に飛び出して遊びに行ってしまいます。自由奔放な子供たちですが、夕方になると、いつの間にかお婆ちゃんの家に帰ってきているというハートフルな作品です。
これらのコインを使ったら面白そうだと言ったのはダイ・バーノンですが、自分で作るのではなく澤氏に委ねてコインをプレゼントしたそうです。それを受けてここまでの作品を作り上げる澤氏には感服しますし、バーノンもきっと無駄にならないと信じてコインをプレゼントしたのだろうと考えると、お二人の関係性も見えてきます。(2019.11.04)
コイン・スルー・ザ・テーブル
〜COINS THROUGH THE TABLE〜
コインがあやなす奇譚な物語
p.68
ルイス・ピエドライタによる奇想天外な改案。それでいて不自然な動きがほとんどありません。コインがテーブルを貫通する直前まで、実際にテーブルの上にあることを観客に印象付けるアイディアは秀逸です。フェイクコインが1枚必要ですが、コインワーカーなら間違いなく持っている、よく見るお馴染みのアレです。テーブルに並べた4枚のコインが1枚ずつハッキリとテーブルを貫通し、テーブルの下に音を立てて落ちていきます。最後にはグラスの中のコインが一気にテーブルの上に逆貫通してしまうという現象も、これだけクリーンに実現するアイディアはなかなか出てくるものではありません。
ギミックとは存在自体を知られてはいけない道具。それに対してフェイクとは、通常の道具のように観客の視線に触れる道具。この2つの用語は、本のはじめに解説されています。そして、フェイクだからこそギミックのように隠そうとせずに堂々と扱う姿勢が、全体的に貫かれています。この作品でもその感覚が充分に発揮されています。観客は、見えているコインに対して一切の疑問を抱かないことでしょう。(2020.05.02)
カンガルー・コインズ
〜Kangaroo Coins〜
コイン・マジックへの誘い
p.37
氣賀康夫氏による解説です。一部「より自然な手つきでおこなえるように」工夫を凝らしている部分はありますが、ほぼダイ・バーノンの手順です。「コインマジックの傑作」として紹介し「著者は原作に欠点がない場合には、原作通り演ずるのがベストと考えています」と前書きして解説されているだけあって、原案への敬意が込められています。原案を尊重し60年ほど演じられてきた氣賀氏が、原案の意図を損わずに一部のハンドリングをより自然に変えた手順です。完成品にさらに磨きをかけたような、洗練された手順になっています。
解説の先頭に持ってきたことからも、著者のこの作品への思いの強さが感じられます。11ページほどの解説の最後にはラッピングに関する実践的な考察も語られており、勉強になります。(2022.03.05)