garamanのマジック研究室

Winged Silver

マジシャンは、テーブルに4枚のコインを横一列に並べます。4枚のコインを全て右手に持ちますが、両手を握ってテーブルの上で開くと、右手の下には3枚しかなく、残りの1枚は左手の下から現れます。1枚が左手に移動したわけです。今度は右手に3枚、左手に1枚を握りますが、手を開くと2枚ずつ出てきます。またもや左手に1枚が移動してしまいました。次の現象が想像しやすいこともあり、観客はかなり集中してマジシャンの手元を見ています。観客の期待通り、左右の手に2枚ずつ握りますが、手を開くと右手の下には1枚しかなく、左手の下から3枚が現れます。こうなると最後の1枚に観客の視線は集中します。それでもマジシャンは真っ向から現象を起こします。右手に1枚、左手に3枚を握りますが、観客注視の中、手を開くと右手の下には1枚もなく、4枚とも左手の下から現れます。

コインを使ったマジックでもっとも思いつきやすい現象ではないでしょうか。その現象を、カップやカードやハンカチで隠したりもせずに、両手のみで実現してしまうことが、この作品の魅力かもしれません。誰でも思いつきやすい現象であるだけに原案を辿るのは難しいですが、デビッド・ロスの作品として認識している方が多いでしょう。基本的技法を色々と取り入れやすいので、多くのマジシャンがバリエーションを発表しています。


ウィングド・シルバー

コインマジック大事典
p.84

従来からあるこのテーマの作品に対して、デビッド・ロスが氏考案のシャトル・パスを取り入れたことで、スマートな作品に仕上がりました。そのためか、デビッド・ロスの作品というイメージが定着しているように感じます。

レギュラーコインだけで実現できる作品です。現象は冒頭の解説通りで、この本に載っている手順がオーソドックスな手順と言えると思います。ネットで検索すると生前の氏の演技がいくつか見られますが、この手順で演じていることが多いように見受けられます。3ページにわたり7枚のイラストを添えての解説で読んでいると多少長く感じる手順ですが、実演は1分半ほどになります。(2022.06.26)

エッジ・グリップを使ったウィングド・シルバー

コインマジック大事典
p.112

ウィングド・シルバーの標準的な手順で2枚まで移動したところから先、3枚目と4枚目をいかにきれいに見せられるかに注目して、その部分だけ解説されています。解説では第5章全体を使ってエッジ・グリップを活用した作品が収録されていますが、その1番目に紹介されているのがこの作品です。

ギミックコインを使うわけではなく、純粋にエッジ・クリップを活用することで見事にクリーンに解決しています。エッジ・グリップを使うということは指先に持ったコインを示しつつ、手のひらに何も隠していないことを暗に示すことができますので、原案よりもクリーンな印象を与えるのは当然のことですが、それに伴ってハンドリングの不自然さなどが目立たないように配慮されています。(2022.07.03)

Winged Silver

Stars of Magic 8
演技 : Title1/Chapter2
解説 : Title1/Chapter5

David Roth 本人による実演が見られます。

最もオーソドックスな手順が自然なムーブでゆっくりと実演されています。まだ若い頃の映像です。流れるようなシャトルパスの見本が見られるのも貴重です(すばやいシャトルパスは色々な人の実演で見られるますが、自然なシャトルパスは意外と見られません)。ひとつひとつの現象が起こるタイミングでちょうど良いくらいの間が開けられているので、全体的にとても見やすく自然に不思議を体験できるような実演です。テクニックに溺れて次々と現象を起こしてしまうようなマジシャンが、とくにコインマジックの世界では多いような気がしますが、これくらいのスピードが理想的ではないでしょうか(個人の見解です)。

実演のみならず、解説も非常にわかりやすく、この映像でシャトルパスを学ぶのはおすすめです。(2022.07.10)

飛行するコイン
〜High Flying Winged Silver〜

世界のコインマジック
p.44

コインマジック大事典で解説されている「エッジ・グリップを使ったウィングド・シルバー」の方の手順です。

コインマジック大事典のような部分的な解説ではなく、初めから最後までの一連の手順が解説されています。必要な技法はシャトル・パスとエッジ・グリップ程度ですのでこの手順だかけを極めるつもりで練習するのも良さそうですが、角度には多少配慮が必要ですので観客の人数は意識した方が良いでしょう。また、手順通りに演じるにはクロースアップ・マットのような柔らかい素材のものが必要です。(2022.07.18)

翼のある銀貨
〜Silver with Wings〜

コイン・マジックへの誘い
p.129

デビッド・ロスの手順について第3段までは大傑作だとしながらも、最後の第4段については「Utility Switch の効果が有効にいかせていない」と看破して、その部分に工夫を凝らした手順が解説されています。

そう言いつつ、第1段から第3段までにもいくつかの工夫が施されています。もともとの作品はある程度の練度が必要ですが、クラシックパームを減らしてサムパームを活用することで比較的容易に演じられるようになっています。そして肝心の第4段は確かに違う方法が採用されています。ただ、著者自身が紹介文の最後に「ご研究ください」と添えているように、研究の余地があり好みの分かれる解決策だと思います。デビッド・ロス自身がエッジ・グリップを活用した手順を発表していますが、そちらの方がスマートな解決方法に感じる人もいると思います。研究しましょう。(2022.07.25)

ショート・ウィング

ゆうきとものクロースアップ・マジック
p.189

原案では、右手の4枚のコインが1枚ずつ左手に移動する現象ですが、これを3枚に減らすことで現象も手順もスッキリさせています。また最後に左手の3枚のコインがまとめて右手に移動する現象を付け加えることで作品全体のインパクトも強くなっています。

3枚のコインを移動させる現象で終わらせても充分に作品としては完成していますが、その後、クリップ・クリック3というオリジナルの技法を使って最後のインパクトを付け加えています。それでいて決して蛇足ではなく作品全体の完成度が高くなっているところが特筆に値すると思います。また、小銭入れに入れたコインを取り出すところから始まり、最後にコインを財布にしまって終わる流れで、うまくエキストラ・コインを処理しているので、単独で演じる作品として重宝しそうです。(2022.07.31)

Journey of absence

パーセプション
演技 : Title3/Chapter6
解説 : Title3/Chapter7

ミゲル・アンヘル・ヘアによる改案です。認知心理学の知識を活用して「位置に関する認知のエラー」を起こさせることで、Winged Silver の現象を実現しています。

もし、説明を文章で読んだら絶対に矛盾を解消できないと思います。よっぽどの駄作か、解説が間違えていると思うことでしょう。1枚のはずのコインが、マジシャンの都合でいつの間にか2枚になってしまうことを隠しもせず、堂々と手順を進めることになるからです。でもこれが通用するのが認知心理学を活用した面白いところ。実際に映像で見た時に違和感を感じる人はほぼいないでしょう。ある程度コインマジックに精通していても、実演を見るとここは見逃してしまう人が多いと思います。充分通用するどころか強い武器になります。

この認知心理学的なテクニックを活用する例として取り上げた手順ですので、完成度はいまいちと思われるかもしれませんが、研究の余地のある面白い作品です。(2022.08.15)