Professor's Nightmare
長さの違う3本のロープが同じ長さに揃ってしまうという、シンプルながらインパクトの強い作品です。「教授の悪夢」と題したストーリーと現象がぴったりフィットした(ある意味珍しい)作品です。
日本では「Professor's Nightmare(教授の悪夢)」という名前で知られるこの作品は1950年代に発表されたものですが、解説本によって原案者が違っていたり、商品化に伴って色々なトラブルがあったようです。その名前もイギリスでは「Equally Unequal Ropes」といった呼び方が定着しているようです。
3本ロープのミステリ
マジック大全
p.109
この本では、原案者はアメリカのボブ・カーバーとなっています。古い本ではヘン・フェッチを原案者として紹介されているものもありますが、どうやらボブ・カーバー原案者説が有力のようです。歴史的にはフェン・フェッチが「Quadropelets」という作品を発表し、それにヒントを得てボブ・カーバーが現在に伝わる手順を考案、その後ジョン・ゴードンが版権を取得して商品化したというのが主な流れです。「Quadropelets」と「Professor's Nightmare」を同じ作品とみなせば、原案者はヘン・フェッチという事になります。つまり現在では両作品を別物とみなしている事になります。少なくとも、ジョン・ゴードンが商品化したときに「Professor's Nightmare」と命名したのは確実なようです。
著者の松田道弘氏が「マジック大全」を出版した2003年時点では、どうやらカール・ノーマンという人が版権を買い取っていたとの事で、全手順を紹介することは避けて前半のみを解説しています。全手順では長さの違うロープが同じ長さに変わり、その後、元のバラバラな長さに戻るという現象ですが、松田氏の解説は長さが揃うところまでとなります。
私自身も小学生の頃からよく演じていて、非常に愛着がある作品です。大人になってからでも何度か演じていますが、前半で終えることも多いので、この本の解説だけでも充分だと思います。(2008.12.13)
三本ロープ
プロが教えるロープマジック
p.166
プロマジシャン・藤山新太郎氏によって、3つの手順が解説されています。「何万とあるロープマジックの中でも三本ロープはロープマジックの最高傑作といえる」という書き出しで、2ページにわたって前書きを書いています。(英語名を”ドクターズナイトメア”と紹介しているのは間違いですが、これはご愛嬌)
1つ目の手順は「基本三本ロープ」と題して、長さを揃えた後元の状態に戻す手順が解説されています。サム・シュオルツの方法だそうですが、出典は不明です。2つ目の手順は「一本ロープからの三本ロープ」と題して、1本のロープを三等分に切断し、バラバラの長さに変えて終わる手順が解説されています。3つ目の手順は「高等編三本ロープ」と題して、長さの違う3本のロープを同じ長さに揃えた後、1本の長いロープにする手順が解説されています。
全部で16ページに渡る解説で、付属のDVDで実演も見られます。(2009.11.01)
三本のロープ・Ⅰ
奇術入門シリーズ ロープマジック
p.181
高木重朗氏による解説。作品は「ヘン・フェッチの原案をポール・ヤングが改案して、ジョン・ゴードンが物語を付け加えたもの」と紹介されていますが、原案者については、前述の通りちょっと古い解釈です。
基本的な「Professer's Nightmare」手順のフル・ルーティーンと言えるでしょう。長さの違う3本のロープを揃え、最後には元のバラバラの長さに戻すところまでの手順が4ページほどに渡って、詳細に解説されています。実に18枚のイラストを添えての解説で、私の知る限り最も優しい解説です。また、4ページで18枚のイラストを使って解説しているのは手順のみで、ストーリー(セリフ)については最後にまとめて紹介されています。手順を覚えたら、2ページほどのストーリーを頭に描きながら練習に励むと良いでしょう。
解説スタイルにまで細かな配慮が見受けられる、名解説です。(2010.06.05)
三本のロープ・Ⅱ
奇術入門シリーズ ロープマジック
p.188
高木重朗氏による解説。サム・シュオルツの手順です。
3本の長さが違うロープを同じ長さに揃えるところまでは、原案とほぼ同じです。その後、同じ長さになった3本のロープを、1本の長いロープ状になるように結び、途中にある2つの結び目を消し去る事で、長い1本のロープにします。
ロープを扱う手順は非常に解説が難しいものですが、26枚のイラストを駆使して分かりやすく解説されています。この8ページわたる解説で理解に躓くような事はないでしょう。しかし、奇術入門シリーズと侮ってはいけません。作品自体は入門レベルを超えているといっても良いでしょう。入門シリーズに収録されている作品ですし、この親切な解説があれば誰にでも実演できそうですが、ぎこちない演技ではこの作品の魅力は発揮されません。反面、演技次第で非常に強いインパクトを与える事のできる作品です。練習の成果がストレートに観客の反応の強さに反映される作品だと思います。(2010.06.13)
三本のロープ・Ⅲ
奇術入門シリーズ ロープマジック
p.196
高木重朗氏の手順の、本人による解説です。
3本の違う長さのロープが1本になる箇所を、公明正大に見せることができる手順です。一瞬で揃うのではなく、徐々に同じ長さになっていくような現象です。この特徴を活かしてクライマックスをゆっくり演じると、より効果的だと思います。その後長さの揃ったロープを1本ずつ取り上げたり、元通りの違う長さのロープに戻したりする部分は標準的なものです。
8ページに渡って38枚ものイラストを添えて解説しています。詳しいのに簡潔で、親切なアドバイスも盛り込まれた名解説です。(2010.06.19)
Professor's Nightmare
Expert Rope Magic Made Easy
Disc3 / Chapter47
ダローによるレクチャー映像です。
見た目の現象は、既出の「マジック大全」に掲載されている手順とほぼ同じです。色違いのロープを使った解説は、初めてこのマジックの原理を知る人にもとても分かりやすいと思います。目的がレクチャーですので、実に細かいところまで解説がなされているのが特徴です。特に、長さを揃えた後に1本ずつカウントしていくときのムーブは、すでにこの作品をレパートリーに入れている方にも参考になるでしょう。一見の価値ありです。(2010.06.26)
教授の悪夢
60歳からのマジック入門
p.40
麦谷眞里氏の作品です。
まず、原案者にまつわるエピソードや「教授の悪夢」のストーリーについて、4ページわたって解説されています。プロの中にも原案についての知識のない者がいると嘆いているような書き出しなのですが、なぜかその後、実際の演技解説に入る直前に「以上の沿革とオリジナルの経緯は、すべて忘れていただいてけっこうです」と書かれています。
第1段で3本のロープを1本につないでみせ、第2段では、そのうちの2本のロープをつなぎます。第3段では残った1本のロープと第2段でつなげた長いロープを同じ長さにします。最後に第4段では、今同じ長さになった2本のロープを1本につなげます。
手順解説の前に「すべて忘れて良い」と書かれていたのも納得で、全4段で構成された手順のうち、教授の悪夢のコンセプトを継承しているのは第1段だけです。この作品を教授の悪夢としてストーリーに乗せて演じることはできません。そもそも第1段で3本のロープを同じ長さにしているわけですから、第3段で2本のロープを同じ長さにするのは、現象としてはグレードダウンしているわけです。ですから無理にストーリーを加えるのは良い結果を招かないと思われます。
ただし、この作品は「3本のロープが1本の長いロープになっていくまでの過程」を見せるという明確なコンセプトがありますので、ストーリーを無理にこじつけるよりは、曲に乗せてじっくりと魅せるように演技すると見栄えのする作品と言えます。(2011.10.16)
教授の悪夢
クロースアップ・マジック コレクション
p.89
カズ・カタヤマ氏の作品です。同じ長さの3本のロープが違う長さの3本になるという、原案とは逆の現象を演じていたカレル・フォックス氏の手順に影響を受けています。カレル氏の作品は、現象が逆なだけでなく、観客の手の中で長さが変わるという特徴があります。カタヤマ氏は、ある時期この逆現象を好んで演じていたそうですが、カレル氏の手順よりも、もう少し多い人数でも演じられるようにと、透明なコップの中で現象が起こるように改案されました。
よく確認した3本の同じ長さのロープを透明なコップに入れて、少し間をおくと3本のバラバラな長さのロープになってしまうという現象です。そのため、演じる条件次第では、他の Professer's Nightmare の手順の前後にこの作品を演じることも可能です。
カタヤマ氏本人の手による8枚のイラストを添えた、わかりやすい解説です。(2019.04.06)