Out Of This World
あなたは、一枚のカードの表を見ないで、赤か黒かを言い当てることができるでしょうか?当たる確率は 1/2 です。まぁ不可能ではありませんね。では、それを52枚続けて行い、すべて言い当てることは可能でしょうか?
そんな有り得ない現象をこのマジックでは可能にしています。さらに驚くべきことに「言い当てる人」はマジシャンではなく、あなた(観客)なのです!!
Out of This World (Paul Curry)
カードマジック事典
p.231
考案者であるポール・カリーの原案です。カードマジックの様々な原理はそのほとんどが19世紀までに確立されていると言われる中で、かのダイ・バーノンが「今世紀に発明された唯一のカードマジックである」と賞賛するほど、衝撃的なトリックの登場でした。このトリックには数多くの改案が存在しますが、「原作どおりに演ずるのが一番」と力説する人もいるようです。ある程度経験豊富な人が演ずるのなら、原案の力強いインパクトを出せるのではないでしょうか。手順が長いせいか、あまりテレビなどで演じているところは見たことがありません。マジックを見るのが好きな人でも、新鮮な驚きがあるトリックです。(2004.04.25)
アウト・オブ・ジス・ワールド (U.F.Grant)
奇術入門シリーズ カードマジック
p.68
U.F. グラントによる、準備なしで行える方法です。52枚すべてを使わず、30枚くらいで Out Of This World を行う方法です。手順は短くなるので見ている人が飽きることもありませんし、残ったカードも「もともとは赤黒バラバラであること」を証明するために利用しているので不自然さがありません。個人的には一番好きな方法です。冷静に考えるとおかしい部分がありますが、それに気づかれないように堂々と演じることが大切です。(2004.04.25)
カラー・コントロール
〜 Scarne's Color Control 〜
カードマジック入門事典
p.256
ジョン・スカーニのちょっと凝った演出です。心理学や超能力の話をしながら、その実験というスタイルで演じていきます。マジシャンが何枚か見本を見せた後は、ほとんどすべてを観客が赤黒を予想して分けていくのですが、最後に確認してみるとパーフェクトに赤黒が分けられています。手順の複雑さを感じさせないように演じることが大切です。
ちなみにセットしていないカードを使って、でたらめに2つに分けたとき、赤と黒が完全に一致する確率は 456兆9351億2817万486分の1だそうです。。。(2004.04.25)
赤と黒(気賀康夫)
奇術入門シリーズ トランプマジック
p.25
気賀康夫氏の改案です。ここで紹介されている手順も、52枚すべては使わず、30枚程度で演じます。即席で演じられるという特徴を持つ上に、ジョーカーを使った演出も含まれています。ちょっとしたセリフの1つ1つに気を使って解説されていますが、そのままをコピーするのではなくセリフの必然性を理解して、自分にあった演出をするのが良いでしょう。(2004.04.25)
アウト・オブ・ジス・ワールド(Out of This World)
メンタルマジック事典
p.4
トリックの解説ではありませんが、メンタルマジックの用語の一つとして紹介されています。名前の由来や、Out of This World に関わるいくつかの伝説が簡単に紹介されています。松田道弘氏の解説によると、このトリックは1942年に発表されたものだそうです。(2004.08.05)
赤と黒/A Small World
カードマジックおとぎ話
p.147
荒木一郎氏による改案で、事前のセットと、簡単なテクニックが必要です。ポール・カリーの原案に、ジョン・ハートマン、ロン・フェリス、マーティン・ガードナー、アルド・コロンビーニらのアイディアを盛り込み、最後に荒木氏のアレンジが施されているそうです。綿密に考え抜かれたこの手順は、観客二人を相手に手順どおりに演じるだけで、自然にプレゼンテーションが完成されてしまうと言っても良いほど完成されています。「カードマジックおとぎ話」は初心者向けに書かれているので、難しいテクニックは必要ありませんが、その分セットが必要なのと、現象が若干複雑に見えるような気がします。原案とこの手順では好みがハッキリと分かれてくるでしょう。。。(2005.02.20)
この世の果てへの道
〜 Way Out of this World 〜
ロン・ウィルソン プロフェッショナルマジック
p.33
ロン・ウィルソンの名手順です。この手順では、事前のシャッフルも観客が行い、赤黒を分けていくのも観客が行います。つまり、マジシャンはほとんど何もしていないかのような印象を与えつつ、進行していきます。また、この手順では必然的に何枚か失敗して別な色の方に分類されてしまうのですが、それさえ狡猾に利用し、あらかじめ何枚失敗するかを予言するという演出を付け加えています。作品全体の印象はとてもクリーンで、裏で行われている事を知ると実に狡猾。そんな作品です。
最後の予言部分が蛇足だと思われるなら、予言はせずに何枚か失敗したままで終わるのも良いでしょう。この手の作品では、パーフェクトに分類できてしまうよりは、何枚か間違えながらも高確率で分類できたというほうが、説得力があるものです。
6ページにわたる解説はとても詳しく分かりやすい内容です。さらに本人が演じているところの写真が8枚添えられており、より分かりやすくなっています。(2012.04.08)
この世の外で
カードマジック大事典
p.352
1942年に発表されたポール・カリーの原案です。カードマジック事典 に掲載されている手順と基本的には同じです。事典の方は14ステップの箇条書きだったのに対して、大事典の方は8ステップに分けてそれぞれが詳細に解説されています。ポイントとなる動作については、なぜそうするのかを意識して演じられるように、さらに詳しく解説されています。全体で2ページのボリュームながら親切な解説です。そんな作品です。
いくつかスピーディーな改案を覚えて、カジュアルに演じるようになってくると、観客の方もそれ相応の反応を返してきます。そんなとき、この原案を時間をかけてじっくりと演じると、予想以上の反応が返ってきて驚いたりします。雰囲気を作りながら本気で魔法使いを演じてみたくなる、そんな魅力がこの原案にはあります。(2015.04.19)
Out of This World
インスクリュータブル:ブルー
演技 : Title5 / Chapter14
解説 : Title5 / Chapter15
ジョセフ・バリーの大胆な改案。よく混ぜたデックから1枚観客に抜き出してもらいます。仮に赤いカードだったとします。何を選んだかをみんなで確認し、テーブルの隅にそのカードを置いておきます。この後が実に大胆。残りのデックを観客に渡して、すきなだけ混ぜてもらいます。さらに、テーブルに適当に配って2つのパケットに分けてもらいます。マジシャンが手も口も出さずに、本当に適当に2つのパケットを作ってもらいます。観客が最初に引いたカードが赤なので、観客に近い方のパケットから「これが赤」と思えるカードを抜き出してもらいます。確認すると、本当に赤です。続けて何枚か抜き出してもらいますが、ことごとく赤いカードが出てきます。さすがに何枚も偶然が続くことに違和感を感じ始めた時、観客に近いパケットを全て裏返すと、なんと全部赤いカードになっています。マジシャンに近い方のパケットを確認すると、全てが黒いカードになっています。
つまり、観客が混ぜながら2つのパケットに分けたのに、見事に赤と黒に配り分けていたという現象です。解決方法はとても大胆。実演するには多少の勇気がいります。また、実際に演じるとなると、一定の確率で不都合が起こります。それにも臨機応変に対処できなければ、実演するのは難しいかもしれません。(2016.05.29)
わがままなカード
〜 THE DISOBEDIENT CARDS 〜
ブラザー・ジョン・ハーマン カードマジック
p.121
正しくは「Out of This World」の改案ではないのですが、「カードの色を分ける」というテーマについて、ポール・カリーが「Out of This World」を作りあげたように、ブラザー・ジョン・ハーマンは「The Disobedient Cards」を生み出しました。別のページを用意するべきかもしれませんが、埋もれてしまうのが勿体無いという思いが強く、このページに分類することにしました。
デックは観客にシャッフルしてもらいます。デックを受け取ったマジシャンは、数枚の反抗的なカードを抜き出します。観客はその反抗的なカードの中から赤・黒一枚ずつの「わがままなカード」を決めます。残りの反抗的なカードたちはデックに戻されます。今、マジシャンはよく混ざったデックを一組持っており、観客は赤・黒一枚ずつの「わがままなカード」を持っています。デックを表向きにテーブルに置き、別の観客にカットしてもらったところへ、「わがままなカード」を裏向きにして2枚とも差し込みます。「わがままなカード」2枚だけが裏向きになった一組のデックをテーブルに8つに分かれるように配っていきます。その分け方も観客の指示通りにしていきます。すべてのカードを配り終えたら、8つのパケットを重ね合わせて一組のデックに戻しますが、その重ね方も観客の指示に従います。そうして出来上がった一組のデックを表向きに広げると、赤と黒が綺麗に分かれています。しかし、それぞれの色のパケットの中には、裏向きのカードが一枚ずつ挟まっています。赤いパケットには「黒いわがままなカード」が、黒いパケットには「赤いわがままなカード」が挟まっているのです。(2016.03.13)
アウト・オブ・ディス・ワールド
ジャーメイズ・マインド 第2巻 日本語字幕版
演技 : Chapter5
解説 : Chapter14
ルーク・ジャーメイによる改案です。長年原案を演じた上で、いくつか感じた不満を改善した作品です。原案に彼が感じた不満は手順が長いこと。52枚全てを赤か黒か考えながら判断していくという流れですから、単純に時間がかかります。彼の改案では赤と黒に分けていく作業が時間が圧倒的に短くなっています。観客は、他の観客たちが机や太ももを叩いて騒がしい音を立てる中、マジシャンからの質問にも答えつつ、すべてのカードを急いで赤と黒に分けていきます。こうして「フロー状態」を作り上げた中で作業をすると、能力を超えた力が発揮されるという演出です。実際に観客が配った二組の山は、見事に赤と黒に分かれています。スピーディーなだけではなく、観客全員が参加していることや公明正大なことも、この作品の特徴です。
解説は、タネや手順についてではなく、演出についてフォーカスが当てられています。トリックの解説を期待した方には残念な作りかもしれませんが、自分でトリックに気づいた方にとっては、この演出面の考察は非常に有益なアドバイスです。(2017.02.11)
Out of this Deck
ボリス・ワイルド Transparency
p.75
ボリス・ワイルドが、自身のトリック・デックを使ってパーフェクトな現象を生み出しました。トリック・デックを使った上に、大胆な手法を用いていることで、ピュアリストにとっては最悪の作品の一つに挙げられると思いますが、観客から見た現象は完璧です。観客がよくシャッフルしたデックをスプレッドし、マジシャンは一枚ずつ指差していきます。その都度、観客は指差されたカードが赤か黒かを推測します。15枚ほど繰り返して、赤と推測された山と、黒と推測した山に分けられたところで、それぞれを表向きにすると、一枚も間違えることなく赤と黒に分類されています。
原案にある、目印用のカードを入れ替えるというステップがなくなっています。余計なステップを省いたことで、原案をよく知っているマジシャンにこそ驚きを与えられる作品になっています。(2017.03.11)
One-Two Separation
グリーン・マジック 第2巻 日本語字幕版
演技 : Chapter7
解説 : Chapter8
レナート・グリーンのワン・ツー・セパレーションという原理を最大限に利用した作品です。アウト・オブ・ディス・ワールドに含めることに異論もあるかもしれませんが、観客の目には「カードを雑に扱ったアウト・オブ・ディス・ワールド」といった印象を与えるでしょう。
観客に入念にシャッフルしてもらったデックを使います。マジシャンは受け取ったデックを二つに分けて、裏向きにテーブルに置きます。別の観客に好きなカードを一枚言ってもらうと、そのカードがどちらの山にあるかを即座に当ててみせるのが第一弾です。続けて、二つのデックを裏向きのままスプレッドし、マジシャンは後ろを向きます。観客はマジシャンが見ていないうちに、ひとつの山から一枚を選んで覚え、もう一方の山に混ぜてしまいます。二つのスプレッドをそれぞれ揃えて山にしたところで、マジシャンは前に向き直ります。この状態から、観客の覚えたカードを当ててしまうのが第二弾です。
最後がアウト・オブ・ディス・ワールド現象です。バラバラに混ぜてもらったデックでここまでのマジックを行なった後、二つの山を混ぜてさらにシャッフルして、観客に渡してしまいます。受け取った観客は一枚ずつテーブルに置きながら、赤と黒に分けていきます。もちろん裏向きで。観客が分けた二つの山を確認すると見事に赤と黒に別れています。(2017.05.20)
Galaxy
Stars of Magic 2
演技:Title1 / Chapter23
解説:Title1 / Chapter24
ワイマン・ジョーンズとポール・ハリスによる改案です。まず2組に分けたデックをリフルシャッフルして交互に噛み合わせ、観客に揃えてもらいます。つまり、間違いなくシャッフルされた状態から始まります。デックから赤と黒のカードを1枚ずつ出して表向きにテーブルに並べます。残ったデックは観客に渡します。観客は裏向きに持ったデックから1枚ずつテーブルにディールしていきますが、裏向きのまま、赤と思ったら赤のカードの上に、黒と思ったら黒のカードの上に配っていきます。最後まで直感だけで配り続けてもらうと、テーブルには赤の表向きのカードの上に25枚ほどのカード、黒の表向きのカードの上にも25枚ほどのカードが積まれた状態になります。
観客自身が自分の直感を信じて配り続けたカードが、どの程度当たっているのかを確認すると、、、もちろん、すべて的中しています。(2017.11.19)
Never in a Lite Time Gaffed Version
夢のクロースアップ・マジック劇場
p.166
美輪晴彦氏の改案です。原案者のポール・カリー自身が、「ガイドカードを途中で入れ替える」という作業を省こうと工夫した、"Never in a Lifetime" という改案を、1975年に発表しています。ところが、ガイドカードをスイッチする代わりに、パケットの方をスイッチしています。それを受けて、ガイドカードもパケットもスイッチせずに実現できないものかと美輪氏が工夫したのが、この "Never in a Lite Time Gaffed Version” です。タイトルにもある通り、ギャフカードを使うことで実現しています。現象はとてもインパクトが強く、原案を知っているアマチュアマジシャンの方が驚くような作品です。
デックを2つに分け、観客とマジシャンがそれぞれ持ち、よくシャッフルします。お互いに赤と黒のガイドカードを1枚ずつテーブルに置いたら、いよいよマジックの始まりですが、この後の展開は異様です。観客は自分が持っているカードを1枚めくり、それが黒なら黒いガイドカードの上に、赤なら赤いガイドカードの上に置きます。その時、マジシャンも同じように1枚を置きますが、マジシャンの方はカードを見ません。裏向きのまま、観客がめくったカードと同じ色のガイドカードの上に置いていくだけです。つまり、観客がめくったカードが黒だったら、観客はそのカードを観客側の黒いガイドカードの上に置き、マジシャンはマジシャンが持っているパケットの一番上のカードを、マジシャン側の黒いガイドカードの上に置くのです。マジシャンが赤に置くか黒に置くかは、完全に観客のパケットの並びに依存するわけです。始める前にお互いによくシャッフルしていますので、この手順でもし正確に赤と黒を分けられるなら、偶然を通り越して奇跡です。そして、もちろん、その奇跡が起こります。(2017.11.25)
Hello World
Incomplete Works
p.75
こざわまさゆき氏の改案です。ガイドカードの交換をしない、ノーマルデックでできる手順です。マジシャンがデックから赤黒1枚ずつのガイドカードを取り出して、テーブルに並べます。残ったデックをシャッフルしてから観客に渡して、いよいよマジックが始まります。観客は裏向きのデックから1枚ずつテーブルに配っていきますが、赤に置くか黒に置くかは、完全に観客の自由です。そして、この作品の1番のポイントは、半分ほど配った頃に「全部そのまま配ってください」と言えることです。初めて見る人には当然に聞こえるフレーズですが、他の手順を知っているアマチュアマジシャンが聞いたら驚くことでしょう。最後まで配り終わったカードが、どの程度正しく振り分けられているかを確認する段階では、ゆっくりと相手の感覚に合わせたペースで進んでいくのもポイントです。スピードでごまかさず、極端にテクニックに頼ることもなく、ちょうど良い解決方法だと思います。
手順の良さも然ることながら、注釈や余禄がとても細やかで、隅々まで行き届いた解説に好感が持てます。(2018.01.14)
Intuition
Card College Light
p.9
ジョン・ケネディの改案です。開始早々にパケットを2人の観客に手渡してしまうため、不可能性がより際立つ作品です。見た目もシンプルで、観客から見ても分かりやすい点でも秀逸です。観客がストップをかけたところでデックを3つに分けて、それぞれ2人の観客とマジシャンが持ちます。3人とも自分のパケットをシャッフルします。マジシャンが持っているパケットを見ると、当然のことながら赤と黒がほぼ同数でランダムに混ざっています。左の観客には、トップから1枚ずつ手に取り、裏向きのまま赤か黒かを感じ取ってもらいます。赤だと感じたらテーブルに、黒だと感じたらマジシャンの手の上に捨ててもらいます。右の観客は黒と感じたらをテーブルに置き、赤と感じたらマジシャンの手の上に捨ててもらいます。すべてのカードを処理し終わったら、2人の観客のそれぞれの前に積まれたカードを確認します。すると、左の観客が赤と思って積んだカードはすべて赤、左の観客が積んだカードはすべて黒になっています。
この作品の唯一の欠点は早々に観客にパケットを渡してしまうため、事前に準備している可能性を感じさせてしまうことです。しかし、Card College Light では、ホァン・タマリッツの T.N.T. に続けて演じるという構成にしており、見事に解決しています。(2019.11.17)
赤と黒
〜 Out of This World 〜
カード・マジック宝石箱
p.121
気賀康夫氏の改案です。「カード・マジック宝石箱」には10作品が収録されていますが、その最後を飾るのがこの「赤と黒」です。それだけに強い思いが込められているようで、「ほぼ最終案といえる満足すべき奇術に仕上がっている」と著者自ら言い切るほどです。ところで、著者は「見た目の現象が改善されるなら、セットは問題ではない」という考え方をお持ちです。この作品でもデック全体にセットを施すことで、原案にある「前半と後半で理由なく手順が分けられている」という誰もが気になる点を見事に解決しています。
ケースから取り出したデックをシャッフルし、観客に1/3程取り上げてもらったら、表を見ずに赤と黒に分けてもらいます。2つの山をそれぞれ確認すると、観客の予想通りに赤と黒に分かれているという現象です。この現象説明に嘘はなく、それはすなわち観客から見た現象がこの通りになるということです。
セットが必要であるというだけで敬遠するタイプの方には響かないとしても、観客から見た現象に焦点を当てれば、かなり理想に近い作品になっていると言えるでしょう。(2023.10.29)
Underworld
The Magic Of Alex Elmsley 2
演技:Title1 / Chapter15
解説:Title1 / Chapter16
アレックス・エルムズレイによるパケット版 Out of This World です。観客の前に2枚のカードを裏向きに並べて置き、赤だと思う方を選んでもらいます。選ばれたカードはテーブルの中央に、選ばれなかったカードはパケットの一番下に戻します。続けて別の観客の前に2枚のカードを裏向きに並べて置き、赤だと思う方を選んでもらいます。先ほどと同じように選ばれたカードはテーブルの中央に。これを数回繰り返すと、テーブルの上に重ねたカードは全て赤に、マジシャン の手元に残ったカードは全て黒になっています。
ノーマルデックで即席にできるのも大きな特徴です。さほど難しい技法も使いませんので、観客との会話を楽しみながら気軽に演じられる作品でもあります。(2024.05.26)
レッド & ブラック
加藤英夫のトリック・デック・ミラクルズ
p.235
この本は加藤英夫氏の作品集ですが、その創作の基になったものが参考作品としていくつか解説されています。レッド & ブラックもそのうちのひとつで、ジョン・ケネディが Genii の1989年3月号に発表したものです。加藤氏はケネディ本人の演技を見てからは、ポール・カリーの原案ではなく、こちらばかりを演じるようになったそうです。
観客から見たイメージは次の通りです。まずシャッフルしたデックから赤と黒のカードを1枚ずつ取り出します。観客に好きな方を選ばせ、観客の前に表向きに置きます。残った1枚はマジシャンの前に表向きに置きます。残ったデックは2人の間に裏向きに置きます。観客は山から1枚取り、自分が選んだ色と同じだと思えばそこに重ね、違う色だと思えば場に捨てます。これをマジシャンと交互に繰り返し、ある程度繰り返したら止めます。場に捨てられたカードはもちろんバラバラですが、観客が手元に残したカードを見ると全て観客が選んだ色で揃っています。
事前に簡単な準備は必要ですが、観客からの見た目もシンプルで、マジシャン側の負担も少ない作品です。(2024.09.01)
アウト・オブ・ジス・ワールドのニューバージョン
マジック大全
p.166
U.F.グラントの改案が、松田道弘氏の文章で解説されています。2003年発行当時の文章として「クレアボアイアンス(透視能力)のテストとしてこれ以上のトリックは見当たらないでしょう。」という前置きが書かれていますが、これは今も変わらないかもしれません。
演技前に観客にノーマルデックを渡してシャッフルしてもらえるところがもっとも特筆すつべき点です。これ以上に説得力のある手があるでしょうか。そして、全てのカードを使わないことで、全体としてスピーディーな展開になることも大きな特徴です。ちょうど良い枚数というのは、演者や観客、時代によっても違いますが、この作品であれば演技中にいくらでも調整できますので、その面でも使い勝手の良い作品です。最初にシャッフルしてもらえることとも関係がありますが、もし演技後に疑り深い観客がいれば、残ったカードを確認してもらうと良いでしょう。不思議さを強調するのに一役買います。
よく考えるとちょっとおかしな点はあります。それを感じさせないくらい堂々と演じられるかどうかは、演者の力量次第です。せっかくノーマルデックでできるうえに難易度も低い作品ですので、演者としての力を養うことに活用してみるのも良さそうです。(2024.10.06)