マジックにだまされるのはなぜか
テレビでは未だに、タネの存在がマジックの全てであるかのような見せ方が流行していますが、タネはあくまでもマジックを演じるための道具の一つ。マジシャンが裏で実行しているテクニックもまた道具の一つです。それらは、もちろん大事な存在ではありますが、あくまでも道具なのです。タネとテクニックがあっても、それを見ている人がいなかったら、そこにマジックは存在しているのでしょうか?突き詰めて考えれば、マジックは観客の心の中にしか存在しないのかもしれません。などと堅苦しく書くと、哲学をしているようで、取り留めのない話になってしまいそうですが、認知心理学の世界では、こういった問題を実験科学的に検証しています。心理学や脳科学の世界では、マジックを利用した実験やマジックにヒントを得た実験が増えてきているそうで、人の脳が事象を認知する仕組みを探る上で、マジックには重要なヒントが隠されているかもしれません。
安易な暴露企画が組まれると必ずと言って良いほど、種明かしに関する言い訳がされます。それは「タネを明かす事によって、次のステージに引き上げる効果がある」というもの。つまり啓蒙活動だという言い分です。しかし、真の種明かしとは「道具を暴露すること」ではなく「マジックの本質を解明すること」です。マジシャンが心理学を学び、研究者がマジックを学ぶ。これこそが真の種明かしではないでしょうか。こんな種明かしなら、啓蒙活動と言える気がします。
そして、この本こそがその一端を担っています。従来のような道具を暴露するようなことはしていません。マジックをテーマとして、観客の脳に何が起こっているのかを分かりやすく解説しています。解説しているのは熊田孝恒氏。1993年に筑波大学大学院心理学研究科をを終了されてから現在に至るまで、認知行動システムの研究を続けている、認知心理学のスペシャリストです。
レビュー
なし