garamanのマジック研究室

魔法を召し上がれ

早くに孤児となり叔父に育てられ、高校生の時には衝撃的な出来事を経験してしまうヒカル。悲しい出来事に見舞われながらも穏やかに成長を続けたヒカルは、20歳の青年マジシャンになり、レストランでテーブルホッパーとして活動していた。「マジシャンはノーと言ってはいけない」という叔父の教えを忠実に守り、日々エンターテイナーの道を探って奮闘するヒカルの元に、ある日盲目のマジシャンが現れ、運命は大きく動いていく。

舞台は2030年頃の近未来。人工知能やVR/ARの技術も伸び、各種のロボットが身の回りになじみ始めた頃の物語です。だからこそ「人間性とは何か」「生きるとはどういうことか」「現実とは何か」といった哲学的なテーマを、現在よりも身近に感じられる流れになっています。このようなテーマに興味のある人なら、淡々と綴られるストーリーにきっと引き込まれていくことでしょう。逆に興味が薄ければ「話が長い」と感じるかもしれません。また、マジックの描写はとても細やかで映像を想起させるような表現になっています。マジシャンが書く文章とは違い、観客目線の現象が細やかに描かれているため、その場で演技を見ているような感覚を受けます。

ところで、この小説は一人称で綴られています。ヒカルが自分の物語を自分で語ることができている以上、彼は最後まで死なないことが分かってしまいます。一人称で書く以上逃れられない呪縛です。ところがこの呪縛からの脱出に、瀬名というマジシャンは果敢に挑戦してみせます。作品そのものがひとつのマジックと言えるでしょう。

瀬名 秀明
講談社


電子書籍版もあります。

レビュー

なし