garamanのマジック研究室

手品

佐左木俊郎氏が昭和8年に大阪朝日新聞に掲載した短編作品。早逝したため作家としての活動は短かかったものの、川端康成に「農民文学の中では傑出した才能を示した」と賛辞を送られた作家。「熊の出る開墾地」「新琴似兵村史」「北海道の話題」など、北海道出身の私(garaman)には耳に馴染みのある作家ですが、「手品」という作品は知りませんでした。

舞台は雪深い東北の山襞(やまひだ)にある村落。正月になると「チャセゴ」というハロウィンのようなイベントが始まります。家々を回る子供達は、おきまりのフレーズと交換に、お餅をもらってくるのです。大人も大人で、部落の地主や素封家のところへ出かけ、何か趣向を凝らした出し物を用意していかなければなりません。でも、ただ行くだけではつまらない。近郷一の素封家である吉田家では、毎年正月になると銀の杯が出されるというので、欲深い万(まん)は、どうにかしてそれを手に入れようと画策します。

万が心を決めて吉田家を訪れた時には、すでに平六たちの出し物が始まっていました。平六が出鱈目な踊りを披露しているすきに、七福神の仮装をした福禄寿が、銀の杯を懐に入れているところを万は目撃してしまいます。先を越された。その盃を何とか自分のものにしたい。そんな欲に駆られている所に、万の番が回ってきます。「私しゃ、芸無し猿でがして、何も出来ねえんでがすが、ただ一つ、手品を知っていますで...」と言うと、万の方に注目が集まります。機転を効かせた万は、福禄寿の盗みを防ぐとともに、まんまと自分の懐に銀の杯を収めることに成功します。その大胆な手口とは。。。

たった 10 ページ程度のボリュームながら、庶民的な雰囲気を漂わせた軽妙なやりとりが魅力の作品。落語にすると面白そう。

佐左木 俊郎
青空文庫POD


電子書籍版もあります。

レビュー

なし