garamanのマジック研究室

医家奇術物語

「医家奇術」なんとなく奇妙な響きです。でも、マジックの世界にはなぜか医者が多い。ドクター◯◯と、医師免許を持っていることを表現している人も結構いますが、名前に反映させなくても実際に免許を持っているマジシャンは、プロ・アマ問わず多い気がします(なんとなくですが)。自分の時間を作ることができて、道具を買う経済的な余裕もあって、演じる機会が多いという事もあるのかも使れませんが、それにしても多いような気がします。マジックを趣味とする人全体における、医者の割合が本当に高いのかどうかはわかりませんが、少なくとも一冊の本が出てしまうくらいの勢いはあるのです。著者の関恵一氏は日本医科大学医学部卒の開業医で、豊島区医師会の元副会長という方です。そんな著者がマジックの世界に入り込んだきっかけや、その後の日本奇術会で重鎮と呼ばれるような方達との運命的な出会いなどが、生き生きと語られています。全18回行われた「全国医家奇術フェスティバル」や、それを継承して全7回行われた「東京医家奇術わいわいくらぶ講演会」などの様子は写真入りで詳しく解説され、アットホームで楽しげな公演の様子が伝わってきます。演目は、各自がこだわった独創的なものも多かったようです。

それにしても登場人物の名前がすごい。日本のマジックの歴史に少しでも興味があれば、よく知っている名前が次々と出てきます。東京医科大学初代学長の緒方知三郎氏。1938年に「香炉と紐」でスフィンクス賞を受賞した坂本種芳氏。大日本茶道学会創設者の田中仙樵氏。手妻研究の第一人者、平岩白風氏。数え上げればキリがありませんが、過ぎ去ってしまった一つの時代を作ってきた人たちの、リアルな声が届くような貴重な一冊です。

関 恵一
近代文芸社

レビュー

なし