garamanのマジック研究室

近代日本奇術文化史

2017年に刊行された「日本奇術文化史」の続編で、幕末から昭和初期までの100年ほどの期間が対象になっています。西洋からのマジックを取り入れつつも日本独自の表現を続けてきた「近代日本奇術」についての研究成果で、「日本奇術文化史」同様、できる限り一次資料にあたり、伝説ではなく史実を残す事に注力した内容です。マジシャン自身のサービス精神から生まれる誇張された話や、又聞きを重ねて膨れ上がってしまった話に振り回されず、たとえ常識として根付いている話であってもその起源を辿って確認する姿勢を貫き、正真正銘の「奇術史」としてまとめた真摯な一冊です。「日本奇術文化史」は、河合勝氏・長野栄俊氏のお二人の著書でしたが、今回はさらに、まだ30代になりたての森下洋平氏が著者の1人として加わっています。

歴史学においては、厳正で適切な「資料批判」が必要です。資料が残っているからと言って鵜呑みにせず、その信憑性・妥当性を一旦疑って検討する姿勢が求められます。第一部「近代日本奇術の歴史」では、およそ100年にわる通史が時代やテーマに沿って9つの章で述べられています。第二部「近代日本奇術師列伝」では、第一部で取り上げられなかった奇術師も含め、彼らの業績や奇術団体などの活動記録も図版を添えて紹介されています。適正な資料批判を行いながらの300ページを超えるボリューム。頭が下がります。

続いて第三部「西洋奇術演目図説」は、前著でまとめられた「日本奇術演目図説」と対をなす内容で、425種の西洋奇術が解説されています。図説と称するだけあって、そのほとんどにビラや本の挿絵等が掲載されており、当時演じられていた様子が感じられるのが嬉しいところです。さらに第四部「資料編」では、「奇術興行資料図録」と「奇術書目録」がまとめられています。

全体で650ページを超える大冊です。

本書では「見てきたような嘘」は排除し、あくまでこれらの多様な資料と対峙する叙述に努めた。

まえがき(長野栄俊氏)

という厳正な姿勢に感銘を受けながら読み始め、

明治・大正・昭和前期に日本に導入された西洋奇術のほぼ全容を知ることができるといえよう。

P.332(河合勝氏)

という言葉にワクワクしながらページをめくり、

本書で取り上げられなかった「現代」は、今後『現代奇術文化史』として総括する必要があるだろう。

P.287(森下洋平氏)

という熱い思いに、将来への期待も残して読み終えました。これほどワクワクしながらページをめくっているのに一向に読み終わらない幸せ。満腹です。

河合 勝
長野 栄俊
森下 洋平
東京堂出版

レビュー

なし