奇術師カーターの華麗なるフィナーレ
グレン・デイヴィッド・ゴールドのデビュー作「Carter beats the devil」の日本語訳です。原著は、2001年9月の発売よりも前から著名作家から絶賛されていた程の人気で、amazon.com では100件以上の5つ星が付いています。日本語訳も早く、2003年1月に刊行されました。ただし、日本での人気は今ひとつ伸びなかったようですが。。。 翻訳時点では、トム・クルーズが映画化権を取得したとの事でしたが、その後しばらく動きはありませんでした。2011年6月に突然、ワーナー・ブラザーズに映画化の動きがあるというニュースが流れ、カーター役としてジョニー・デップの名が挙げられていました。が、その後の動きは、やっぱり分かりません。
事件は1923年に起こります。アメリカの第29代合衆国大統領、ウォレン・ハーディングが謎の死を遂げたのです。公には病死とされているものの、前日のマジックショーにゲストとしてステージに上がり、ライオンに食べられるという演目をこなした事もあり、マジシャン、チャールズ・カーターに疑いの目が向けられます。大統領は死の直前まで大きな悩みを抱えており、周囲の人々に「おそろしい秘密を知ってしまったら、きみはどうするかね?」と意味深長な質問を投げかけていました。その意味を知ることが大統領の死の真相に迫る道であるのは確かでも、最後にこの質問を投げかけられたのは、秘密を守る事にかけて命を懸けることも厭わないマジシャンなのです。そのマジシャンも客船ハーキュリーズ号に乗って姿を消してしまい、真相は深い闇の中。。。
ハーディン大統領も、チャールズ・カーターも実在の人物で、もちろんアメリカでは有名な2人です。また大統領の死に不可解な点が多いことも実話です。ストーリーの中で重要な位置を占めるある発明品も、当時実際に開発が行われていたものです。当時活躍したハワード・サーストンやハリー・フーディーニも強烈な存在感を持って登場します。登場人物や歴史的背景に巧みに事実を織り込んでいくのは、著者自身がデビュー前は新聞記事も書くフリーライターだからこそかもしれません。また、書き上げるまでに5年の歳月を費やすほどの執念が、この作品の完成度を高めています。
これは「大統領の謎の死を解き明かす推理もの」であり「あるマジシャンのサクセス・ストーリー」でもあります。また、「2人のマジシャンの憎悪が絡むサスペンス」であり「目の見えない女性とのラブ・ストーリー」でもあります。さらには「深い兄弟愛によるヒューマン・ドラマ」でもあり「組織内で疎まれる1人のシークレット・サービスの執念」も見せてくれます。これら全てが程よく調和し最後の『華麗なるフィナーレ』を迎えたとき、私(garaman)は思いました。
「映画じゃ表現しきれないだろうなぁ」と。
レビュー
なし