生者と死者
泡坂妻夫氏による「しあわせの書」に続く仕掛け本第2弾です。驚くべき、いや、有り得ない仕掛けが施されています。今回はなんと、小説が消えます!前作「しあわせの書」を読んだ方ならお分かりかとは思いますが、これらの仕掛け本の製作にはとてつもない労力が伴います。「しあわせの書」には1年の期間が必要でしたが、この「生者と死者」は実に7年の歳月を要したそうです。この小説は14の袋とじで構成されています。つまり、買った時点では28ページしかありません。袋とじの状態のままで28ページの短編小説が読めるようになっています。読み終わったら、全ての袋とじを切り開いてください。208ページの長編小説として読むことができます。もちろん長編小説を読んでいけば、先に短編小説として読んだページも出てきますが、短編小説などはじめから無かったかのように自然にストーリーが展開していきます。言い換えれば長編小説のページを飛び飛びに拾い集めて短編小説を形成しているわけですが、決してダイジェストになっているわけではなく全く別のストーリーになっているわけです。
同じ名前の人が短編と長編では性別が違っていたり、マジック・バーに至っては存在そのものが消えています。短編小説に確かに出てきたマジック・バーが長編小説には出てこないのです。長編にあるものが短編に無いなら話は簡単ですが、逆なんです。短編にあるものが長編で消えてしまうのです。長編小説には短編小説のページが全て含まれているにも関わらずです。こんなに鮮やかな消失マジックは見た事がありません。単行本という小さな世界ではありますが、7年がかりの壮大なイリュージョンと言っても過言ではないでしょう。
レビュー
なし