日本奇術演目事典
2011年、奇術史研究家であり奇術史文献収集家でもある、河合勝氏によって出版された「日本奇術演目事典」。江戸から昭和にかけての日本独特のマジックを、実に1016種類も取り上げて、「大手妻」や「水芸」「当てもの」など、20の章に分類しています。基本的には1つの作品が1ページで取り上げられており、伝授本の該当ページを撮影した画像が収められています。伝授本は挿絵と文章による解説が多いのが特徴なので、伝授本の該当ページが画像として掲載されているのはありがたいことです。画像の下には、伝授本に書いてあることをそのまま文字に起こした「翻刻」と、それを現代語に訳した文章と、さらには必要に応じて解説を添えるという丁寧なまとめ方をされています。
およそ750ページものボリュームで作品を紹介されているのは圧巻の一言です。その上「日本奇術概説(7ページ」「日本奇術用語集(8ページ)」「日本奇術人名録(15ページ)」「日本奇術演目一覧(55ページ)」「日本奇術書目録(20ページ)」と、全体で850ページを超える大冊です。
これだけの質と量でありながら、なんと自費出版です。2012年には第15回自費出版文化賞において、応募総数771点の中から、見事大賞に選ばれています。奇術文献研究家であった故・近藤勝氏をして「神の書」と言わしめるほど、日本のマジック界においてこの本の存在意義は大きいと思います。その上、マジックに関わらない一般の方々からも、文化としての面白さを認めていただいたことは、とても大きな功績と言えるでしょう。のちの「日本奇術文化史」発行という大事な事業にも、この本が大きな役割を果たしています。